そのツインの部屋に荷物を置き、一旦退室してラーラとレオンティーヌの様子を見に行く。
すると、まだ僅かな時間しか経過していないのにも拘らず、もうとっ散らかされている有様を目前にして絶句し、下着姿で床に正座させられているレオンティーヌをラーラが鬼の形相で説教しているのを見なかったことにして部屋に戻る。
そして――共にシングルサイズであった筈のベッドの片方がダブルサイズに変更されいるのに気付いた。
「ガンバってね」
そう言いながら、妙に色っぽくパチンとウィンクをして、ベッドを片手にエイリーンは去って行った。
「ねぇセシル。ベッドって片手で持てるものだったっけ?」
「ん~、俺は頑張ればギリいけるか? でもそれ持って軽々とは歩けないかな」
「龍人族って、本当に凄いですね」
目の前で繰り広げられた驚愕の事象に、ただ呆然とするセシル達。
だがいつまでもそんなことに気を取られてはいられない。荷物を軽く整理し、
「あ、そういえばデシー。なんかセシル子供欲しいみたいだよ。生んであげたら?」
「それに応えるのはやぶさかではありませんが、ディアは私が先でも良いのですか? しかも植物妖精は双子三子当り前ですよ」
「私に許可取る意味が判らないんだけど……ああそっか、そんなにいっぱい生まれるんならおっぱい足りなくなるかぁ。うーん、どうしようかなぁ。ラーラにお願いする?」
「(其処は『私も生む』と言って欲しいのですが……)」
「うん? なにか言ったデシー」
「いいえ、思いの外ディアが素直じゃなくて臆病だと思っただけです」
「なんのこと?」
なにやら不穏な会話を耳にしたが聞かなかったことにして、セシルはデシレアにラーラとレオンティーヌを呼んでくるように託ける。
そして「マーチャレス農場謹製色々詰合セット」を両手に抱え、クローディアと一緒に階下へ降りて行――
「セ・シ・ル、くぅ~~~~ん! 待ってたよぉ! さあさあ早速私と再会のいっぱ――」
――き、再び飛び込みする変態にドン引きする。
だが両手が塞がっているし、しかもここで避けてしまったらクローディアが被害が遭う。それはなんか、イヤだ。
覚悟を決め、抱き付かれた瞬間に身を捻って力の方向を変え、床に叩き付けてやろうかとも思ったが、実は体術に関してかなりの達人である変態にそれが通用するとは思えない。
「〝次元空間充填障壁〟」
そう覚悟を決めて、きっと色々されるんだろーなーとか考えていると、目の前に正六角形の透明な板が隙間無く組み合わされいく。
「――つぅ!?」
その透明な板にリーは頭を強かに打ち付け、更にその衝撃が反射して二倍のダメージになる。
流石にその衝撃は尋常ではなく、そのまま床に転がって声も無くのたうち回るリー。
それを、その傍に来た着流しを悠然と羽織っている龍人族の男――JJが、放置されたゴミでも見るかのような視線を落とす。
「~~~~こんの屑龍! なに余計なことしやがるんだ莫迦野郎! ヒトの恋路を邪魔してんじゃねぇよクソがぁ!」
「あ゛あ゛? 恋路だぁ? 寝呆けてんのかこん細目野郎が! ああ、目が開いてねぇから寝呆けてんのか。寝るなら黙って寝とけやビチグソチビが! 寝呆けて人様に迷惑掛けてんじゃねぇ!」
頭を押さえて勢い良く立ち上がり、JJへ人には向けてはいけない獰猛な表情で睨め上げる。
だがその程度で怯むJJはなく、此方も獰猛に詰め寄っている。その双眸が怪しい光を放ち、そして口から灼熱の吐息が漏れていた。
「やんのかゴラ! 手前ぇの鱗全部剥がして売っ払ってやんよ!」
「言ってろクソチビ! そのあるかどうか判らねぇ細目を永久に閉じてやんよ!」
まさに一触即発。
だがそのとき、
「〝四重詠唱〟展開」
涼やかな声が響き、その懐かしく、だが僅かな差異のある声色に懐かしさが込み上げるセシルとクローディア。
そして声の主へ目を向けると、全身から魔力を迸らせているシェリーが映る。
「〝石壁〟!〝大気の戦鎚〟!」
瞬間的に魔力が周囲を満たす。そして口論(?)する二人の真下に石の壁が展開し、次いでその真上から大気の鎚が振り下ろされる。
その衝撃で二人は仲良く石壁に叩き付けられた。
あまり関係ないが、JJが頭を打ち付けた石壁には、打点を中心に罅が入っていたりする。
そして副産物ともいうべき発生した風により、シェリーとクローディアのスカートがブワッと捲れた。
後ろにいるクローディアのなにかは残念ながら見えなかったが、正面にいるシェリーの細かいレースが入った純白ツヤツヤの芸術的ななにかが露わになり、セシルは表情を引き締めて真剣にガン見した。
「〝詠唱破棄〟」
そして周囲を満たす魔力が嘘のように霧散し、シェリーは短く息を吐く。
「お客様が来ているのに燥ぐんじゃないわよ! 良い歳してみっともない!」
腕を組み、床に蹲る二人を見降ろしてビシッと言う。
それを目の当たりにしたクローディアは、熱の籠った視線を向けて「ぽー」っとしていた。
「いやでもお嬢。六年ぶりに愛する人に逢えたのですよ。純情が暴走してイロイロ濡れちゃうのは仕方ないのです」
「このクソチビが鬱陶しくも下劣に跳ね回るのは目に余ります。即座に廃棄処分にするべきと愚考します」
「んだとこの屑龍が! 誰が下劣だスカしてんじゃねぇぞゴラ! こちとら長年の純情を暴走させてんだ邪魔すんじゃねぇ!」
「あ゛? どのツラ下げて純情っつってんだクソが! 何処でも股濡らしてる年中発情淫乱クソチビがイキってんじゃねぇぞ!」
「誰が淫乱だこん屑龍! こう見えてもこちとら経験人数一人じゃボケぇ!」
『え?』
瞬間、その場にいる全ての時間が、体感として数十秒止まった。
「あ」
静まり返ったその空間で、ただ一人その失言に気付いたリーは、やらなきゃ良いのに弾みでぶっちゃけてしまったことを激しく後悔する。
「ああ、うん。なんか、済まない。自分も言い過ぎた。淫乱って言ったのは取り消すし、その、凄く申し訳ない」
そんなリーへ、さっきまで罵っていた筈のJJが優しくそんなことを言い出し、そして謝罪した。その気遣いが、余計にリーの心を抉る。
「ジャン。リーはね、実は離婚歴があるのよ。確かに変態だけど、純情っていうのは一概に否定出来ないわ」
更にことの成り行きを見守っていたエイリーンの追撃が効果的一撃となり、遂にリーは頭を抱えて悶絶してしまった。
「そうなんだ……リーも辛いことがあったのね。なんか、色々言ってごめんなさい」
次いでシェリーまでそんなことを言い始め、居た堪れなくなったリーは、
「う」
のろのろと立ち上がり、そして俯いたまま、
「私を、そんな目で見るなあああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁあぁーーーー…………」
ドップラー効果を残しつつ、そのまま外に飛び出して行った。
その後暫くの間、リーは商会に姿を見せなかったという。
しかしその仕事だけは、どういうわけか気付いたらしっかりしてあったりする。それは実はいつも通りであるため、従業員一同は殆ど気にしていなかったそうだ。
ぶっちゃけ何処に行ったのかというと、隣にある酒蔵の主人であるザカライア爺に愚痴を聞いて貰いに行っただけであったが。
金毛妖狐族であるザカライア爺は、とても面倒見が良かった。
一〇三歳で孫が二〇人いる、どう見ても二〇代にしか見えないカマ語の美青年だが。
そんな嵐のような出来事の後、
「やべぇ、あの変態がちょっと可愛く見えてしまった」
「それは絶対にダメだからね」
そんな独白をして、クローディアに釘を刺されるセシルであった。
すると、まだ僅かな時間しか経過していないのにも拘らず、もうとっ散らかされている有様を目前にして絶句し、下着姿で床に正座させられているレオンティーヌをラーラが鬼の形相で説教しているのを見なかったことにして部屋に戻る。
そして――共にシングルサイズであった筈のベッドの片方がダブルサイズに変更されいるのに気付いた。
「ガンバってね」
そう言いながら、妙に色っぽくパチンとウィンクをして、ベッドを片手にエイリーンは去って行った。
「ねぇセシル。ベッドって片手で持てるものだったっけ?」
「ん~、俺は頑張ればギリいけるか? でもそれ持って軽々とは歩けないかな」
「龍人族って、本当に凄いですね」
目の前で繰り広げられた驚愕の事象に、ただ呆然とするセシル達。
だがいつまでもそんなことに気を取られてはいられない。荷物を軽く整理し、
「あ、そういえばデシー。なんかセシル子供欲しいみたいだよ。生んであげたら?」
「それに応えるのはやぶさかではありませんが、ディアは私が先でも良いのですか? しかも植物妖精は双子三子当り前ですよ」
「私に許可取る意味が判らないんだけど……ああそっか、そんなにいっぱい生まれるんならおっぱい足りなくなるかぁ。うーん、どうしようかなぁ。ラーラにお願いする?」
「(其処は『私も生む』と言って欲しいのですが……)」
「うん? なにか言ったデシー」
「いいえ、思いの外ディアが素直じゃなくて臆病だと思っただけです」
「なんのこと?」
なにやら不穏な会話を耳にしたが聞かなかったことにして、セシルはデシレアにラーラとレオンティーヌを呼んでくるように託ける。
そして「マーチャレス農場謹製色々詰合セット」を両手に抱え、クローディアと一緒に階下へ降りて行――
「セ・シ・ル、くぅ~~~~ん! 待ってたよぉ! さあさあ早速私と再会のいっぱ――」
――き、再び飛び込みする変態にドン引きする。
だが両手が塞がっているし、しかもここで避けてしまったらクローディアが被害が遭う。それはなんか、イヤだ。
覚悟を決め、抱き付かれた瞬間に身を捻って力の方向を変え、床に叩き付けてやろうかとも思ったが、実は体術に関してかなりの達人である変態にそれが通用するとは思えない。
「〝次元空間充填障壁〟」
そう覚悟を決めて、きっと色々されるんだろーなーとか考えていると、目の前に正六角形の透明な板が隙間無く組み合わされいく。
「――つぅ!?」
その透明な板にリーは頭を強かに打ち付け、更にその衝撃が反射して二倍のダメージになる。
流石にその衝撃は尋常ではなく、そのまま床に転がって声も無くのたうち回るリー。
それを、その傍に来た着流しを悠然と羽織っている龍人族の男――JJが、放置されたゴミでも見るかのような視線を落とす。
「~~~~こんの屑龍! なに余計なことしやがるんだ莫迦野郎! ヒトの恋路を邪魔してんじゃねぇよクソがぁ!」
「あ゛あ゛? 恋路だぁ? 寝呆けてんのかこん細目野郎が! ああ、目が開いてねぇから寝呆けてんのか。寝るなら黙って寝とけやビチグソチビが! 寝呆けて人様に迷惑掛けてんじゃねぇ!」
頭を押さえて勢い良く立ち上がり、JJへ人には向けてはいけない獰猛な表情で睨め上げる。
だがその程度で怯むJJはなく、此方も獰猛に詰め寄っている。その双眸が怪しい光を放ち、そして口から灼熱の吐息が漏れていた。
「やんのかゴラ! 手前ぇの鱗全部剥がして売っ払ってやんよ!」
「言ってろクソチビ! そのあるかどうか判らねぇ細目を永久に閉じてやんよ!」
まさに一触即発。
だがそのとき、
「〝四重詠唱〟展開」
涼やかな声が響き、その懐かしく、だが僅かな差異のある声色に懐かしさが込み上げるセシルとクローディア。
そして声の主へ目を向けると、全身から魔力を迸らせているシェリーが映る。
「〝石壁〟!〝大気の戦鎚〟!」
瞬間的に魔力が周囲を満たす。そして口論(?)する二人の真下に石の壁が展開し、次いでその真上から大気の鎚が振り下ろされる。
その衝撃で二人は仲良く石壁に叩き付けられた。
あまり関係ないが、JJが頭を打ち付けた石壁には、打点を中心に罅が入っていたりする。
そして副産物ともいうべき発生した風により、シェリーとクローディアのスカートがブワッと捲れた。
後ろにいるクローディアのなにかは残念ながら見えなかったが、正面にいるシェリーの細かいレースが入った純白ツヤツヤの芸術的ななにかが露わになり、セシルは表情を引き締めて真剣にガン見した。
「〝詠唱破棄〟」
そして周囲を満たす魔力が嘘のように霧散し、シェリーは短く息を吐く。
「お客様が来ているのに燥ぐんじゃないわよ! 良い歳してみっともない!」
腕を組み、床に蹲る二人を見降ろしてビシッと言う。
それを目の当たりにしたクローディアは、熱の籠った視線を向けて「ぽー」っとしていた。
「いやでもお嬢。六年ぶりに愛する人に逢えたのですよ。純情が暴走してイロイロ濡れちゃうのは仕方ないのです」
「このクソチビが鬱陶しくも下劣に跳ね回るのは目に余ります。即座に廃棄処分にするべきと愚考します」
「んだとこの屑龍が! 誰が下劣だスカしてんじゃねぇぞゴラ! こちとら長年の純情を暴走させてんだ邪魔すんじゃねぇ!」
「あ゛? どのツラ下げて純情っつってんだクソが! 何処でも股濡らしてる年中発情淫乱クソチビがイキってんじゃねぇぞ!」
「誰が淫乱だこん屑龍! こう見えてもこちとら経験人数一人じゃボケぇ!」
『え?』
瞬間、その場にいる全ての時間が、体感として数十秒止まった。
「あ」
静まり返ったその空間で、ただ一人その失言に気付いたリーは、やらなきゃ良いのに弾みでぶっちゃけてしまったことを激しく後悔する。
「ああ、うん。なんか、済まない。自分も言い過ぎた。淫乱って言ったのは取り消すし、その、凄く申し訳ない」
そんなリーへ、さっきまで罵っていた筈のJJが優しくそんなことを言い出し、そして謝罪した。その気遣いが、余計にリーの心を抉る。
「ジャン。リーはね、実は離婚歴があるのよ。確かに変態だけど、純情っていうのは一概に否定出来ないわ」
更にことの成り行きを見守っていたエイリーンの追撃が効果的一撃となり、遂にリーは頭を抱えて悶絶してしまった。
「そうなんだ……リーも辛いことがあったのね。なんか、色々言ってごめんなさい」
次いでシェリーまでそんなことを言い始め、居た堪れなくなったリーは、
「う」
のろのろと立ち上がり、そして俯いたまま、
「私を、そんな目で見るなあああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁあぁーーーー…………」
ドップラー効果を残しつつ、そのまま外に飛び出して行った。
その後暫くの間、リーは商会に姿を見せなかったという。
しかしその仕事だけは、どういうわけか気付いたらしっかりしてあったりする。それは実はいつも通りであるため、従業員一同は殆ど気にしていなかったそうだ。
ぶっちゃけ何処に行ったのかというと、隣にある酒蔵の主人であるザカライア爺に愚痴を聞いて貰いに行っただけであったが。
金毛妖狐族であるザカライア爺は、とても面倒見が良かった。
一〇三歳で孫が二〇人いる、どう見ても二〇代にしか見えないカマ語の美青年だが。
そんな嵐のような出来事の後、
「やべぇ、あの変態がちょっと可愛く見えてしまった」
「それは絶対にダメだからね」
そんな独白をして、クローディアに釘を刺されるセシルであった。