都市の周囲に広がっていた、不毛地帯と見做されていた荒地や山林、雑木林が整地開墾されて農場となり、そして都市側もそれらの援助を積極的に行ったことにより、それら経営は思いの外早く軌道に乗った。
そんな状況であるためか、交易都市と呼ばれているこのバルブレアが、果たしてその通称が適当であるのかとまことしやかに囁かれるくらい、その周囲に同様な農場が発展し始めて更に一年。
もう農畜産物が特産で良いんじゃないかと皆が認識し始めた頃になると、元孤児院である農場で働く子供たちの多くは成人を迎えていた。
セシルとクローディアは一八歳となり、より精悍に、より美しく成長していたのだが、二人の関係は相変わらずであり、レスリーとレオンティーヌ以外の全員に、いい加減に籍を入れて欲しいと思われているのだが、そう言われても相変わらず「身体だけの関係」と公言して憚らない。
挙句クローディアに至っては、セシルとレスリーをくっつけようと画策してすらいた。
どちらも濡烏色の髪と白磁の肌の持ち主であり、瞳の色もセシルが灰色でレスリーが緋色と、良い感じでお似合いだし。
だが肝心のセシルには誰かを娶って身を固めるという気は一切なく、身体だけの関係も「楽だから」という理由で辞めるつもりは一切なかった。それはクローディアも同じ考えであったが。
レオンティーヌとの関係に関しては、彼女の思惑が透けて見えるため論外である。
今年で二十歳になる、既に嫁に行っても良い年齢を過ぎているにも関わらず、裁縫以外の家事全般が壊滅していて、更に片付けられない汚部屋の主では貰い手は皆無だろう。
事実、僅か数日間だけセシルが掃除をしなかったときには室内が足の踏み場もないほど惨憺たる有様になり、更に洗濯すらしない(出来ない)ため着る物がなくなってしまい、ノーパンノーブラのキャミソール姿でセシルの部屋に転がり込んだのである。
そのとき寝惚けたセシルがクローディアと間違えて手を出しそうになり、だが妙に薄い胸部装甲に気付いて踏み止まった。
ちなみにクローディアはそれを全然責めないで、逆に「どーぞどーぞ」と言っていたそうな。
セシルにとってそれは痛恨時であり、なかった事実をあったかのように吹聴するレオンティーヌを物理的に踏ん付けて否定したのである。
だが、まぁ、レオンティーヌは無駄肉がなく胸部装甲は心許ないのだが、それ以外はとても良かったらしく、既成事実寸前まで行っちゃったらしい。
なにが良かったのかは不明であるが、ともかくその彼女を叩き出した後のセシルは何故かとても凄かったと、後にクローディアはどういうわけかレスリーに滔々と語っていたそうな。どうでも良いことではあるが。
元孤児院であったそこは、既にそれであったという面影は皆無であり、現在は「マーチャレス農場」としてバルブレアにおける農畜産産業の先駆として一目置かれていた。
ちなみに「マーチャレス」とは、六次産業の先駆であるため「商人要らず」から派生したものであると世間様から言われているのだが、実際は全く違う。
「マーチャレス」とは、この農場の基礎を作った三人娘の名前のそれぞれ頭文字を並べた造語である。
即ち、MayとCharlotte、そして Leslieの頭文字でMa Cha Les。
この名付けを三人娘は猛烈に反対し、名付けるなら「セシル農場」もしくは「アディ農場」とするべきだと訴えたのだが、結局は説得されて渋々承諾したのである。
その後で何故か寝ようとしているセシルの元に、代わる代わる身を清めてから訪れられちゃったらしいが。
それをされていたセシルは、なんでこの世界の女の子は、事ある毎にすぐに身体で払いたがるんだと、夜遅くまで資格取得の勉強を頑張っているリオノーラの部屋に熱りが覚めるまでの間、集中講義という体で退避して愚痴を零していたという。
そして案の定なクローディアが、
「そんなに深く考えずに本能のまましちゃえばいいのに」
と爆弾を投下する始末。
だがセシルにとっては、そうするわけにはいかないのだ。
彼女たちとの今後の関係に問題が発生する上、きっと三人娘は避妊や周期計算という概念は無いであろうから、高確率で責任問題も出てくるし、なによりこれから更に活躍の場を広げるであろう娘たちの可能性を潰したくない。
あと「ハーレム野郎」と誹謗されるのも不本意だし、そっち方面での妬み嫉みは本気で勘弁して貰いたいとも考えていた。
だが、まぁ、三人娘は各種族補正がなくとも相当器量良しで、メイは元気系可愛い娘、シャーロットは知的美人な女の子であり、そしてレスリーは神秘的で妖艶な女性という佇まいを醸し出しているために、各方面で熱烈な人気者だったりする。
三人娘をエセルが引き取ったとき、もしかして顔面接もしたのではないかと勘繰ってしまうほどだ。
というか、元ではあるが孤児院で暮らしていた子供たちは悉く美男美女揃いであり、これは絶対にエセルがなにか仕出かしたとセシルは睨んでいる。それがなにかは不明だが。
そんな感慨に耽りながら、なんだかんだでバルブレアで話題の三人娘と言われて今現在も俗っぽい雑誌の取材を受けている三人のスケジュール管理やらマネジメントをする羽目になっているセシルは、「好きな異性のタイプは?」との質問に一切迷うことなく、だが可愛らしく恥じらいながら異口同音で「セシル・アディ」と答えられてズッコケながらも、今後の方策を脳内で検討していた。
その後のアップルジャック商会は案の定空中分解状態であり、本店があるストラスアイラ王国内の支店すら維持経営が出来なくなってしまっていた。
よって国外にある多くの支店は、まだ余力があるうちに独立したのである。
そう、このバルブレアに現在あるポトチュ……ファロヴァ? 商会のように。
そういう面で、ポト……その商会のアフ……会長は先を見通す能力に長けていたと言えよう。
まぁ、各国に散らばっていたアップルジャック商会の支店がほぼ同時期に独立したのは、アフ会長率いるポト商会の独立が引鉄と言えなくもない。
アフ会長にしてみれば、セシルの勧めもあったのだからそう言われるのは不本意であり、だがそういった先見の明とか先駆者とか言われれば悪い気はしないのもまた事実である。
よって彼はその評価に対して反論は一切せず、そして誇ることすらもなかった。あと、そうするのが面倒だったし。
だが強いて反論するならば、自分の名前と商会名はちゃんと言って欲しいらしい。
「ポト商会のアフ会長」で良いじゃないか、覚え易いし――
――と、セシルは思っている。口には出さないが。
そしてそのようにバラバラになったアップルジャック商会なのだが、実は現在も廃業することなく営業を続けていた。
これに関しては完全に予想外であり、なにが起きたのかを探ってみたところ、エセルの娘であるシェリー・アップルジャックが主導で立て直したという、俄には信じ難い情報が飛び込んで来た。
これは誤報だろう。セシルは当初、そう判断した。
何故ならエセルの娘であるシェリーは、当時まだ九歳であったのだから。
しかし、調べれば調べるほどそれが事実であるとの情報しかなく、挙句あくる日セシル宛にシェリー本人から、
「なにが知りたいわけ?」
――といった意味合いの、リンゴに口付ける森妖精の紋で封蝋された手紙が届いて度肝を抜かれた。
これは「本物」だ。
セシルはそう判断し、そしてアップルジャック商会と繋がりがあったというコネを活かして商会立て直しの援助を開始した。
商会の立て直しに必要なものがなにか。
それは優秀な人材である。
幾ら金銭があろうとも、それを使う側が愚かでは意味がない。
だからセシルは、三人娘をグレンカダムへ出向させると決め――
「絶対イヤだし! なんでウチが行かなきゃならないし! どうしても行けって言うんなら、ウチを倒してからにして欲しいし!」
そんなバカなことを言うシャーロットを脇の下くすぐりの刑で撃退し、
「絶対ヤだ! ボクはどこにも行かないよん! どうしても行けって言うんなら、ボクを身籠らせてほしいんだよん!」
次いで意味不明な覚悟を決めてアホなことを口走るメイを耳掃除の刑でホッコリさせ、
「あちきも嫌でありんす。主さんから離れるなんて好かねぇことは言わないでおくんなんし。どうしてもと言わはるんならあちきを娶ってからにしておくんなんし」
そして変わらず一切ブレずにそう言い真っ直ぐに見詰めるレスリーの頭を撫でる。ついでに角も摘んだのはナイショの方向で。
そんな凄腕ジゴロのような、ちょっと違うような方法で三人娘を陥落……もとい説得させ、戸籍省でそれぞれ姓を登録させる。
ついでにクローディアとリオノーラと、名乗らせてはいたが登録をすっかり忘れていたレオンティーヌも登録を済ませた。
「私の扱い雑過ぎませんか!? もっと丁寧に扱って下さい大切にして下さい、優しくして下さい! ちゃんと元気な子供を生みますから娶って下さい一生面倒を見て下さい! あ、お部屋がちょっとだけ散らかっちゃったので掃除をお願いします♪ 報酬はいつも通り身体で払いま――痛い痛い痛い! ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました済みません反省してます! なので顔面鷲掴みは勘弁して下さい!」
「お前の汚部屋は昨日掃除したばっかりだろうがなんでそんな速攻で散らかるんだよ! あとこれ見よがしに脱ぎ散らかしたパンツを散乱させとくんじゃねぇ! 言っとくが俺はパンツで喜ぶ変態じゃねぇからドン引きするだけだぞ覚えとけ! つーか何処から仕入れたそんな変態トラップ!?」
「ごめんなさいごめんなさい痛いです勘弁して下さい! ディアがセシルはパンツをスーハーするのが好きだって言っていたのでやったんですごめんなさい!」
「レオ姉さん、ダメだよパンツ単体じゃ。ちゃんと履いたのをセシルに脱がせる前提でやらなくちゃ」
などとちょっとしたセシルの性癖を暴露しちゃうクローディア。悪びれた様子など皆無である。
「ディア、お願いだからそういう暴露は止めてくれ……てかメモすんなそこ!」
そしてメモに余念がない三人娘。どうやらあわよくば、色々と高水準なセシルに唾を付けようとしているらしい。喰いっ逸れなさそうだから。
関係ないが、メイもシャーロットも一夫多妻に抵抗はなかったりする。なのでたとえセシルとクローディアが籍を入れたとしても、二号三号全然問題なしであった。そして現在レスリーを説得中である。
だがそんな二人も、片付けられない汚部屋の主なレオンティーヌと一緒は嫌だった。子供が出来たら教育に悪そうだし、なんか色々湧いちゃいそうだから。
そんなセシルを狙って策謀を練る女衆を、リオノーラは冷めた目で見ていたという。
そんな珍事や押し問答が暫く続き、落とし所として「マーチャレス農場」が完全に安定してセシルの手を離れたら、彼自身もグレンカダムへ向かうという約束をして納得させた。
――エセルの列車事故から約三年。
バルブレアから彼女の娘ともいうべき三人娘の、土妖精メイ・スコールズ、ヒト種シャーロット・エフィンジャー、そして鬼人族レスリー・レンズリーがグレンカダムへと旅立って――
「あ、わたしも行く。グレンカダムで一発立身出世してやるわ!」
何故かリオノーラ・オクスリーも一緒に旅立って行った。
三人娘はそれぞれ一六歳、リオノーラは一四歳と、まだ幼さが残る年齢であった。
そんな状況であるためか、交易都市と呼ばれているこのバルブレアが、果たしてその通称が適当であるのかとまことしやかに囁かれるくらい、その周囲に同様な農場が発展し始めて更に一年。
もう農畜産物が特産で良いんじゃないかと皆が認識し始めた頃になると、元孤児院である農場で働く子供たちの多くは成人を迎えていた。
セシルとクローディアは一八歳となり、より精悍に、より美しく成長していたのだが、二人の関係は相変わらずであり、レスリーとレオンティーヌ以外の全員に、いい加減に籍を入れて欲しいと思われているのだが、そう言われても相変わらず「身体だけの関係」と公言して憚らない。
挙句クローディアに至っては、セシルとレスリーをくっつけようと画策してすらいた。
どちらも濡烏色の髪と白磁の肌の持ち主であり、瞳の色もセシルが灰色でレスリーが緋色と、良い感じでお似合いだし。
だが肝心のセシルには誰かを娶って身を固めるという気は一切なく、身体だけの関係も「楽だから」という理由で辞めるつもりは一切なかった。それはクローディアも同じ考えであったが。
レオンティーヌとの関係に関しては、彼女の思惑が透けて見えるため論外である。
今年で二十歳になる、既に嫁に行っても良い年齢を過ぎているにも関わらず、裁縫以外の家事全般が壊滅していて、更に片付けられない汚部屋の主では貰い手は皆無だろう。
事実、僅か数日間だけセシルが掃除をしなかったときには室内が足の踏み場もないほど惨憺たる有様になり、更に洗濯すらしない(出来ない)ため着る物がなくなってしまい、ノーパンノーブラのキャミソール姿でセシルの部屋に転がり込んだのである。
そのとき寝惚けたセシルがクローディアと間違えて手を出しそうになり、だが妙に薄い胸部装甲に気付いて踏み止まった。
ちなみにクローディアはそれを全然責めないで、逆に「どーぞどーぞ」と言っていたそうな。
セシルにとってそれは痛恨時であり、なかった事実をあったかのように吹聴するレオンティーヌを物理的に踏ん付けて否定したのである。
だが、まぁ、レオンティーヌは無駄肉がなく胸部装甲は心許ないのだが、それ以外はとても良かったらしく、既成事実寸前まで行っちゃったらしい。
なにが良かったのかは不明であるが、ともかくその彼女を叩き出した後のセシルは何故かとても凄かったと、後にクローディアはどういうわけかレスリーに滔々と語っていたそうな。どうでも良いことではあるが。
元孤児院であったそこは、既にそれであったという面影は皆無であり、現在は「マーチャレス農場」としてバルブレアにおける農畜産産業の先駆として一目置かれていた。
ちなみに「マーチャレス」とは、六次産業の先駆であるため「商人要らず」から派生したものであると世間様から言われているのだが、実際は全く違う。
「マーチャレス」とは、この農場の基礎を作った三人娘の名前のそれぞれ頭文字を並べた造語である。
即ち、MayとCharlotte、そして Leslieの頭文字でMa Cha Les。
この名付けを三人娘は猛烈に反対し、名付けるなら「セシル農場」もしくは「アディ農場」とするべきだと訴えたのだが、結局は説得されて渋々承諾したのである。
その後で何故か寝ようとしているセシルの元に、代わる代わる身を清めてから訪れられちゃったらしいが。
それをされていたセシルは、なんでこの世界の女の子は、事ある毎にすぐに身体で払いたがるんだと、夜遅くまで資格取得の勉強を頑張っているリオノーラの部屋に熱りが覚めるまでの間、集中講義という体で退避して愚痴を零していたという。
そして案の定なクローディアが、
「そんなに深く考えずに本能のまましちゃえばいいのに」
と爆弾を投下する始末。
だがセシルにとっては、そうするわけにはいかないのだ。
彼女たちとの今後の関係に問題が発生する上、きっと三人娘は避妊や周期計算という概念は無いであろうから、高確率で責任問題も出てくるし、なによりこれから更に活躍の場を広げるであろう娘たちの可能性を潰したくない。
あと「ハーレム野郎」と誹謗されるのも不本意だし、そっち方面での妬み嫉みは本気で勘弁して貰いたいとも考えていた。
だが、まぁ、三人娘は各種族補正がなくとも相当器量良しで、メイは元気系可愛い娘、シャーロットは知的美人な女の子であり、そしてレスリーは神秘的で妖艶な女性という佇まいを醸し出しているために、各方面で熱烈な人気者だったりする。
三人娘をエセルが引き取ったとき、もしかして顔面接もしたのではないかと勘繰ってしまうほどだ。
というか、元ではあるが孤児院で暮らしていた子供たちは悉く美男美女揃いであり、これは絶対にエセルがなにか仕出かしたとセシルは睨んでいる。それがなにかは不明だが。
そんな感慨に耽りながら、なんだかんだでバルブレアで話題の三人娘と言われて今現在も俗っぽい雑誌の取材を受けている三人のスケジュール管理やらマネジメントをする羽目になっているセシルは、「好きな異性のタイプは?」との質問に一切迷うことなく、だが可愛らしく恥じらいながら異口同音で「セシル・アディ」と答えられてズッコケながらも、今後の方策を脳内で検討していた。
その後のアップルジャック商会は案の定空中分解状態であり、本店があるストラスアイラ王国内の支店すら維持経営が出来なくなってしまっていた。
よって国外にある多くの支店は、まだ余力があるうちに独立したのである。
そう、このバルブレアに現在あるポトチュ……ファロヴァ? 商会のように。
そういう面で、ポト……その商会のアフ……会長は先を見通す能力に長けていたと言えよう。
まぁ、各国に散らばっていたアップルジャック商会の支店がほぼ同時期に独立したのは、アフ会長率いるポト商会の独立が引鉄と言えなくもない。
アフ会長にしてみれば、セシルの勧めもあったのだからそう言われるのは不本意であり、だがそういった先見の明とか先駆者とか言われれば悪い気はしないのもまた事実である。
よって彼はその評価に対して反論は一切せず、そして誇ることすらもなかった。あと、そうするのが面倒だったし。
だが強いて反論するならば、自分の名前と商会名はちゃんと言って欲しいらしい。
「ポト商会のアフ会長」で良いじゃないか、覚え易いし――
――と、セシルは思っている。口には出さないが。
そしてそのようにバラバラになったアップルジャック商会なのだが、実は現在も廃業することなく営業を続けていた。
これに関しては完全に予想外であり、なにが起きたのかを探ってみたところ、エセルの娘であるシェリー・アップルジャックが主導で立て直したという、俄には信じ難い情報が飛び込んで来た。
これは誤報だろう。セシルは当初、そう判断した。
何故ならエセルの娘であるシェリーは、当時まだ九歳であったのだから。
しかし、調べれば調べるほどそれが事実であるとの情報しかなく、挙句あくる日セシル宛にシェリー本人から、
「なにが知りたいわけ?」
――といった意味合いの、リンゴに口付ける森妖精の紋で封蝋された手紙が届いて度肝を抜かれた。
これは「本物」だ。
セシルはそう判断し、そしてアップルジャック商会と繋がりがあったというコネを活かして商会立て直しの援助を開始した。
商会の立て直しに必要なものがなにか。
それは優秀な人材である。
幾ら金銭があろうとも、それを使う側が愚かでは意味がない。
だからセシルは、三人娘をグレンカダムへ出向させると決め――
「絶対イヤだし! なんでウチが行かなきゃならないし! どうしても行けって言うんなら、ウチを倒してからにして欲しいし!」
そんなバカなことを言うシャーロットを脇の下くすぐりの刑で撃退し、
「絶対ヤだ! ボクはどこにも行かないよん! どうしても行けって言うんなら、ボクを身籠らせてほしいんだよん!」
次いで意味不明な覚悟を決めてアホなことを口走るメイを耳掃除の刑でホッコリさせ、
「あちきも嫌でありんす。主さんから離れるなんて好かねぇことは言わないでおくんなんし。どうしてもと言わはるんならあちきを娶ってからにしておくんなんし」
そして変わらず一切ブレずにそう言い真っ直ぐに見詰めるレスリーの頭を撫でる。ついでに角も摘んだのはナイショの方向で。
そんな凄腕ジゴロのような、ちょっと違うような方法で三人娘を陥落……もとい説得させ、戸籍省でそれぞれ姓を登録させる。
ついでにクローディアとリオノーラと、名乗らせてはいたが登録をすっかり忘れていたレオンティーヌも登録を済ませた。
「私の扱い雑過ぎませんか!? もっと丁寧に扱って下さい大切にして下さい、優しくして下さい! ちゃんと元気な子供を生みますから娶って下さい一生面倒を見て下さい! あ、お部屋がちょっとだけ散らかっちゃったので掃除をお願いします♪ 報酬はいつも通り身体で払いま――痛い痛い痛い! ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました済みません反省してます! なので顔面鷲掴みは勘弁して下さい!」
「お前の汚部屋は昨日掃除したばっかりだろうがなんでそんな速攻で散らかるんだよ! あとこれ見よがしに脱ぎ散らかしたパンツを散乱させとくんじゃねぇ! 言っとくが俺はパンツで喜ぶ変態じゃねぇからドン引きするだけだぞ覚えとけ! つーか何処から仕入れたそんな変態トラップ!?」
「ごめんなさいごめんなさい痛いです勘弁して下さい! ディアがセシルはパンツをスーハーするのが好きだって言っていたのでやったんですごめんなさい!」
「レオ姉さん、ダメだよパンツ単体じゃ。ちゃんと履いたのをセシルに脱がせる前提でやらなくちゃ」
などとちょっとしたセシルの性癖を暴露しちゃうクローディア。悪びれた様子など皆無である。
「ディア、お願いだからそういう暴露は止めてくれ……てかメモすんなそこ!」
そしてメモに余念がない三人娘。どうやらあわよくば、色々と高水準なセシルに唾を付けようとしているらしい。喰いっ逸れなさそうだから。
関係ないが、メイもシャーロットも一夫多妻に抵抗はなかったりする。なのでたとえセシルとクローディアが籍を入れたとしても、二号三号全然問題なしであった。そして現在レスリーを説得中である。
だがそんな二人も、片付けられない汚部屋の主なレオンティーヌと一緒は嫌だった。子供が出来たら教育に悪そうだし、なんか色々湧いちゃいそうだから。
そんなセシルを狙って策謀を練る女衆を、リオノーラは冷めた目で見ていたという。
そんな珍事や押し問答が暫く続き、落とし所として「マーチャレス農場」が完全に安定してセシルの手を離れたら、彼自身もグレンカダムへ向かうという約束をして納得させた。
――エセルの列車事故から約三年。
バルブレアから彼女の娘ともいうべき三人娘の、土妖精メイ・スコールズ、ヒト種シャーロット・エフィンジャー、そして鬼人族レスリー・レンズリーがグレンカダムへと旅立って――
「あ、わたしも行く。グレンカダムで一発立身出世してやるわ!」
何故かリオノーラ・オクスリーも一緒に旅立って行った。
三人娘はそれぞれ一六歳、リオノーラは一四歳と、まだ幼さが残る年齢であった。