物凄く良い顔で満足げに少年を自らの膝の上に有無を言わさず乗せてご満悦な草原妖精をよそに、そこに乗せさせられているだけではなく、どういうわけか対面で抱き付かさせられて呆然としている少年は、
(どうしてこうなった)
心中で独白し、だがその温かさだったり抱かれることの心地良さだったりを初めて味わい、そして僅かに存在する胸の膨らみに顔を埋めて意識を朦朧とさせる。
そう、街道沿いを除く全てを焼き尽くした森林火災の現場から、少年は何故かお持ち帰りされていた。
それから、朦朧としているのは具合が悪いとかではない。控え目とはいえ女の胸に抱かれているのだ、むしろ良いくらいである。
少年は、生まれてこの方このように抱かれたことなどないのだから。
「ねぇねぇリー、あたしにも抱っこさせてよ」
夢心地でうつらうつらしている少年を見て羨ましくなったのか、例のとんでもない魔法で森林火災を鎮火させた女が頬を膨らませて言う。
だがそのリーと呼ばれた草原妖精は即座に嫌な顔をし、だがすぐに真顔に戻って頭を振った。
「それはいけませんエセル様。子供だと油断していると寝首を掻かれますよ。それに――」
夢心地な少年の頭を愛しむ様に撫で、
「リーが女の顔してる……だと……!」
とか言われて、今度は物凄く不本意そうな表情になって憮然とするが、その表情を引き締めてから続けた。
「この子の体術とか体捌きを見るに、恐らく出身は暗殺者の村でしょう」
草原妖精――リーがそう断定した瞬間、少年は自分を抱き締める腕を振り解こうとその身を起こし、
「……ん……コラコラ、おっぱいはもっと優しく揉むものだぞ。そんなに乱暴にしたら特殊性癖の持ち主しか喜ばない」
またしても胸を鷲掴んでしまい、途端に真っ赤になる少年。そしてリーは自身の胸を鷲掴んでいるその手を軽く左右に払い除け、再び抱き締める。
「ちなみにその性癖の持ち主は私だがな!」
「リーはどMさんだからね~」
自分の性癖を何故か誇らしげに暴露し、更にどういうわけか胸を張りドヤ顔で少年を抱き締めるリー。その手は左で頭を撫で、右手で背中をポンポン優しく叩いている。どちらにしても、愛情たっぷりだ。
「安心しろ、私達はお前をどうこうするつもりはない。あと、リンクウッドの森に暗殺者の村があることくらい知っているよ。村長のカリスタ婆は昔馴染みだし」
頭ナデナデ背中ポンポンされて夢心地な少年。しかし村を把握していると言うリーを警戒し、それでもカリスタの鬼ババァぶりを思い出してザワっとする。
そしてリーもそれを知っているためなのか、そして突然寒くもないのに僅かに震え始めている少年の心情を察したのか、撫でる手をそのままに、僅かにその手に力を込めて柔らかく抱き締めた。
――物理的な柔らかさは乏しいのに。
それを胡乱げに見ていたその女――エセルがそんなことを考え――
「……なにか今、とても失礼なことを考えませんでしたかエセル様?」
「エスパーか!?」
だがそれを見事に悟られ、思わずそんなことを口走る。
「? その『えすぱぁ』なるものは良く判りませんが、エセル様が私を貧乳だと言っているのは理解しました」
「いえいえ、なに言ってるのリー。ちっぱいは尊いのよ! 価値あるものなの! 世の男どもは巨乳好きって言われてるけど、それはおっぱい星人の声が大きいだけで実はそれほど需要は無いの! ザックだってちっぱい好きなの知ってた?」
「『ちっぱい』とか『おっぱいせいじん』とか、更にそこで何故にザックが出てくるのかはちょっと判りませんが……まぁ一回で種付け成功するくらいザックが貧乳好きっていうのは理解しました。エセル様もそれほど大きくありませんからね」
「え? えーと……なんのことかあたしには判らないにゃあ?」
「すっ恍けなくても大丈夫ですよ誰にも言いませんから。それにザックはそっち方面では非常に達者ですから仕方ないです。なにしろ性的に鈍感って言われている龍種の女をそっちの虜にするくらいですからね。あと個人的に、シェリー様にあのクズの血が一滴たりとも混じっていないのは非常に喜ばしい限りです。もっともザックが私を選ばなかったのは業腹ですが」
「あー……残念だけどザックがリーを選ぶのはナイかなぁ~……」
そう断定するエセル。リーはザックことアイザックの冒険者としての師匠だし、色々苦手らしいし、更に言うなら互いにどM気質だから相性が悪いだろう。
「おっぱい談義はともかくとして、リンクウッドの森が燃えたということは、この子の故郷、名もない暗殺者の村が滅びたと同義でしょうね。そしてそれをしたのは、恐らくブレアアソール帝国」
少年を撫でる手を止めず、リーはそう断定した。諜報活動に一家言持ちは伊達ではない。
「ふうん、そうなの。流石リーだわ。その辺の事情に詳しいのね。変態なのに」
「まぁ二十年はこの仕事をしていますし。蛇の道は蛇ということで。あと『変態』と言うときはもっと吐き捨てる様に言って下さい。それだと濡れません」
「それあたしとかシェリー相手にやらないで。貴女先日シェリーに『もっと罵って』とか言ったでしょう? あれ以来あの子、貴女のこと苦手になっちゃったから」
「ほほう、それは重畳。その調子で将来的にもっと私めを罵ってくれれば……ああ、想像しただけでもゾクゾクしちゃう……」
言いつつ、恍惚の表情を浮かべながらフトモモを合わせてモジモジする。
リーは真性の変態だった。あまりの変態ぶりに、いたってノーマルな旦那が付いていけなくなって離縁されてしまった経歴持ちである。
ちなみに離縁調停のとき、
「なんでキミはそんなに変態なんだ! 昔はもっとまともだったろう!」
「それは我慢してたに決まっているでしょう。それに貴方だって『あるがままのキミを受け入れる』って言ってたくせに、ちゃんと縛ってくれないしお尻を叩いてもくれないし、◯◯を◯◯してくれないし! ◯◯だってしてくれないし! ◯◯◯◯するときにせめてちゃんと罵って欲しかった!」
などと自身の性癖を大暴露して調停員をドン引かせたという。
その後は一部の調停員が、リーと同じくちょっとアレだったために互いに同情され、結局は両成敗という形で治まったという。
そんなリーの変態話しはどうでも良い。
問題はこの少年である。
「それでエセル様、この少年をどうするおつもりで? まさか育てて燕にするつもりでもないでしょうね?」
「まさかそんなことしないわよ。それにそういうの、あたしはもういいわ。一晩で一生分くらいされちゃったから」
「なにを言っているのですかエセル様。一晩でそんなに出来るわけないでしょう。なんなら協力しますよ? 私としましてはエセル様にもっと子を生して欲しいと思っています。良いじゃないですかこの際ザックと爛れた関係になっても。全然まったく、完全に問題なしです。きっとエイリーンだって許してくれますよ。ついでに私にも摘み喰いさせてくれれば尚、問題ありません」
「問題だらけだよ! 問題しかないよ! それにあたしは別にザックとは……」
「今更誤魔化しても無駄ですよ。エセル様を常に警護している身として言わせて貰えば、あの日の夜は凄かったです」
「ちょっと待ってどういうこと! 見てたの!?」
「思わずこの私めが独りで捗ってしまうくらいに凄かったですね。エセル様って案外好きも――」
「あー! あー! きーこーえーなーいぃ!」
「そういうことにしておきましょう。でももう一人産んで欲しいというのは、紛れもない本音ですよ。そして、女の子も良いですが出来ればしっかり出来る男の子をお願いします。私が責任を持って女と技を教えて差し上げます」
「作る予定もない息子の予約をしないで!」
そんなバカな遣り取りをしながら、リンゴに口付ける森妖精の紋が幌に入っている馬車は、ゆっくりとリンクウッドの森沿いの街道を進んで行く。
行く先は、ダルモア王国東端。リンクウッドの森と同じくブレアアソール帝国とストラスアイラ王国、そしてそのダルモア王国の三国が街道を介して交わる都市。
――交易都市バルブレア。
(どうしてこうなった)
心中で独白し、だがその温かさだったり抱かれることの心地良さだったりを初めて味わい、そして僅かに存在する胸の膨らみに顔を埋めて意識を朦朧とさせる。
そう、街道沿いを除く全てを焼き尽くした森林火災の現場から、少年は何故かお持ち帰りされていた。
それから、朦朧としているのは具合が悪いとかではない。控え目とはいえ女の胸に抱かれているのだ、むしろ良いくらいである。
少年は、生まれてこの方このように抱かれたことなどないのだから。
「ねぇねぇリー、あたしにも抱っこさせてよ」
夢心地でうつらうつらしている少年を見て羨ましくなったのか、例のとんでもない魔法で森林火災を鎮火させた女が頬を膨らませて言う。
だがそのリーと呼ばれた草原妖精は即座に嫌な顔をし、だがすぐに真顔に戻って頭を振った。
「それはいけませんエセル様。子供だと油断していると寝首を掻かれますよ。それに――」
夢心地な少年の頭を愛しむ様に撫で、
「リーが女の顔してる……だと……!」
とか言われて、今度は物凄く不本意そうな表情になって憮然とするが、その表情を引き締めてから続けた。
「この子の体術とか体捌きを見るに、恐らく出身は暗殺者の村でしょう」
草原妖精――リーがそう断定した瞬間、少年は自分を抱き締める腕を振り解こうとその身を起こし、
「……ん……コラコラ、おっぱいはもっと優しく揉むものだぞ。そんなに乱暴にしたら特殊性癖の持ち主しか喜ばない」
またしても胸を鷲掴んでしまい、途端に真っ赤になる少年。そしてリーは自身の胸を鷲掴んでいるその手を軽く左右に払い除け、再び抱き締める。
「ちなみにその性癖の持ち主は私だがな!」
「リーはどMさんだからね~」
自分の性癖を何故か誇らしげに暴露し、更にどういうわけか胸を張りドヤ顔で少年を抱き締めるリー。その手は左で頭を撫で、右手で背中をポンポン優しく叩いている。どちらにしても、愛情たっぷりだ。
「安心しろ、私達はお前をどうこうするつもりはない。あと、リンクウッドの森に暗殺者の村があることくらい知っているよ。村長のカリスタ婆は昔馴染みだし」
頭ナデナデ背中ポンポンされて夢心地な少年。しかし村を把握していると言うリーを警戒し、それでもカリスタの鬼ババァぶりを思い出してザワっとする。
そしてリーもそれを知っているためなのか、そして突然寒くもないのに僅かに震え始めている少年の心情を察したのか、撫でる手をそのままに、僅かにその手に力を込めて柔らかく抱き締めた。
――物理的な柔らかさは乏しいのに。
それを胡乱げに見ていたその女――エセルがそんなことを考え――
「……なにか今、とても失礼なことを考えませんでしたかエセル様?」
「エスパーか!?」
だがそれを見事に悟られ、思わずそんなことを口走る。
「? その『えすぱぁ』なるものは良く判りませんが、エセル様が私を貧乳だと言っているのは理解しました」
「いえいえ、なに言ってるのリー。ちっぱいは尊いのよ! 価値あるものなの! 世の男どもは巨乳好きって言われてるけど、それはおっぱい星人の声が大きいだけで実はそれほど需要は無いの! ザックだってちっぱい好きなの知ってた?」
「『ちっぱい』とか『おっぱいせいじん』とか、更にそこで何故にザックが出てくるのかはちょっと判りませんが……まぁ一回で種付け成功するくらいザックが貧乳好きっていうのは理解しました。エセル様もそれほど大きくありませんからね」
「え? えーと……なんのことかあたしには判らないにゃあ?」
「すっ恍けなくても大丈夫ですよ誰にも言いませんから。それにザックはそっち方面では非常に達者ですから仕方ないです。なにしろ性的に鈍感って言われている龍種の女をそっちの虜にするくらいですからね。あと個人的に、シェリー様にあのクズの血が一滴たりとも混じっていないのは非常に喜ばしい限りです。もっともザックが私を選ばなかったのは業腹ですが」
「あー……残念だけどザックがリーを選ぶのはナイかなぁ~……」
そう断定するエセル。リーはザックことアイザックの冒険者としての師匠だし、色々苦手らしいし、更に言うなら互いにどM気質だから相性が悪いだろう。
「おっぱい談義はともかくとして、リンクウッドの森が燃えたということは、この子の故郷、名もない暗殺者の村が滅びたと同義でしょうね。そしてそれをしたのは、恐らくブレアアソール帝国」
少年を撫でる手を止めず、リーはそう断定した。諜報活動に一家言持ちは伊達ではない。
「ふうん、そうなの。流石リーだわ。その辺の事情に詳しいのね。変態なのに」
「まぁ二十年はこの仕事をしていますし。蛇の道は蛇ということで。あと『変態』と言うときはもっと吐き捨てる様に言って下さい。それだと濡れません」
「それあたしとかシェリー相手にやらないで。貴女先日シェリーに『もっと罵って』とか言ったでしょう? あれ以来あの子、貴女のこと苦手になっちゃったから」
「ほほう、それは重畳。その調子で将来的にもっと私めを罵ってくれれば……ああ、想像しただけでもゾクゾクしちゃう……」
言いつつ、恍惚の表情を浮かべながらフトモモを合わせてモジモジする。
リーは真性の変態だった。あまりの変態ぶりに、いたってノーマルな旦那が付いていけなくなって離縁されてしまった経歴持ちである。
ちなみに離縁調停のとき、
「なんでキミはそんなに変態なんだ! 昔はもっとまともだったろう!」
「それは我慢してたに決まっているでしょう。それに貴方だって『あるがままのキミを受け入れる』って言ってたくせに、ちゃんと縛ってくれないしお尻を叩いてもくれないし、◯◯を◯◯してくれないし! ◯◯だってしてくれないし! ◯◯◯◯するときにせめてちゃんと罵って欲しかった!」
などと自身の性癖を大暴露して調停員をドン引かせたという。
その後は一部の調停員が、リーと同じくちょっとアレだったために互いに同情され、結局は両成敗という形で治まったという。
そんなリーの変態話しはどうでも良い。
問題はこの少年である。
「それでエセル様、この少年をどうするおつもりで? まさか育てて燕にするつもりでもないでしょうね?」
「まさかそんなことしないわよ。それにそういうの、あたしはもういいわ。一晩で一生分くらいされちゃったから」
「なにを言っているのですかエセル様。一晩でそんなに出来るわけないでしょう。なんなら協力しますよ? 私としましてはエセル様にもっと子を生して欲しいと思っています。良いじゃないですかこの際ザックと爛れた関係になっても。全然まったく、完全に問題なしです。きっとエイリーンだって許してくれますよ。ついでに私にも摘み喰いさせてくれれば尚、問題ありません」
「問題だらけだよ! 問題しかないよ! それにあたしは別にザックとは……」
「今更誤魔化しても無駄ですよ。エセル様を常に警護している身として言わせて貰えば、あの日の夜は凄かったです」
「ちょっと待ってどういうこと! 見てたの!?」
「思わずこの私めが独りで捗ってしまうくらいに凄かったですね。エセル様って案外好きも――」
「あー! あー! きーこーえーなーいぃ!」
「そういうことにしておきましょう。でももう一人産んで欲しいというのは、紛れもない本音ですよ。そして、女の子も良いですが出来ればしっかり出来る男の子をお願いします。私が責任を持って女と技を教えて差し上げます」
「作る予定もない息子の予約をしないで!」
そんなバカな遣り取りをしながら、リンゴに口付ける森妖精の紋が幌に入っている馬車は、ゆっくりとリンクウッドの森沿いの街道を進んで行く。
行く先は、ダルモア王国東端。リンクウッドの森と同じくブレアアソール帝国とストラスアイラ王国、そしてそのダルモア王国の三国が街道を介して交わる都市。
――交易都市バルブレア。