人目を憚らずに熱烈に抱き合うアイザックとエイリーン。
そしてそんな二人を白けた表情で見ているシェリーは、なんだか今にもナニかをおっ始めそうな雰囲気をなんとかしようと咳払いをする。
だがそうしたところで――
「なんか……シェリーの咳払いってエロいわね」
「そうなんだよ、だから従業員どもが喜んで仕方ないんだ」
「そういえばエセルさんの咳払いがエロいって、ザックもリーも喜んでたわね」
「いや待てそれに反応する男子は高確率で居るぞ」
「やっぱり男はケダモノね。シェリーも気をつけなさいよ」
そんな見当違いの注意をされるだけだった。それにそんな注意をされても、本気でどんな返答をすればいいのか困るだけである。
だから意趣返しのつもりで、ちょっと悪い笑みを浮かべて言った。
「うん、判った気をつけるよ。ママ」
そしてそれを聞いて、今度はエイリーンが固まる。シェリー、最高のしたり顔。
だが次の瞬間、
「もっと言ってシェリー! もっとママって言って!」
「ごげ!?」
「ひょえああああ!」
アイザックを突き飛ばしてそこから離れると、今度はシェリーを思いっ切り抱き締める。
その予想の遥か斜め上の行動に、思わずおかしな声を上げちゃうシェリー。どうやらエイリーンの何かの琴線に触れてしまったようだ。
ちなみにシェリーの悲鳴(?)の前のおかしな声は、突き飛ばされてちょうどあった柱へと強かに後頭部をぶつけたアイザックが漏らしたものである。
「待って待って待って! どうしたのよエイリーンさん! てか力! 強! 締まってる締まってる! ギブギブギブ!」
「違う!『エイリーン』じゃなくて『ママ』って言って! じゃないと離してあげない!」
「言う前に落ちちゃうから! ちょちょちょっと待――」
タップする手からカクンと力が抜けちゃうシェリー。どうやら無事(?)に落ちちゃったようだ。
そんな腕の中で脱力しているシェリーに気付き、
「え? どうしちゃったのシェリー! 気を確かに持って! シェリー! シェリーーーー!!」
「落ち着けい!」
落ちて脱力するシェリーをカックンカックン揺すりながら派手に慌てるエイリーン。そしてその頭にアイザックが手刀を振り下ろす。
エイリーンには全くダメージはなく、手の方が痛かったのはナイショの方向で。流石は龍人である。
「ザック大変! シェリーが動かなくなっちゃった!」
「お、おお、そうだな。ぶっちゃけお前のせいだけどな」
慌てるエイリーンからシェリーを取り上げ、胸の中心を数回押して呼吸をさせる。
すると即座に目を見開き、咽せ込みながら荒い息を吐き出して、シェリーは何故か周囲を見回した。
「ぶはぁ! あービックリした。なんか綺麗なお花が咲き乱れる川の向こうでお母さんが『こっち来んな! エイリーンのアホ!』って言ってたような気がするわ」
「臨死体験してんじゃねぇか……マジでなにやってんだよエイリーン」
若干冷や汗をかきつつ、アイザックはジト目でそのエイリーンを見るのだが、
「ああシェリー! 大丈夫!? 心配したわ!」
「〝大気の戦鎚〟!」
そんなことを言いながらまたしても抱き付こうと超高速移動で接近するエイリーンへ、ゼロ距離で魔法を放つシェリー。
エイリーンの着衣の所々がその衝撃で弾け飛ぶが、彼女自身は僅かに後退しただけだ。そして心なしか、瞳孔が爬虫類のように縦長になっているようにも見える。
恐るべき身体能力。龍人族の最強種である黄金龍は伊達ではない。というかそんな力で抱き付かれたら、今度こそ命は無いと真剣に考えるシェリー。
なので、
「お父さん助けて!」
先程初めてそうだと知った父へ助けを求めた。
「いい加減にしろエイリーン!」
その娘の声に応え、父親であるアイザックはエイリーンを後ろから抱きかかえるように持ち上げ、器用に半回転させて自分の正面を向かせると、
ズキュウウウン!
そのまま抱き締めてキスをする。
突然そんなことをされれば戸惑うのが当り前で、その例に漏れずにエイリーンも当然そうなったのだが、ちょっと落ち着いてくると今度はアイザックの頭を抱きかかえ、未成年にはちょっとどころか相当刺激が強過ぎるベロチューを始めてしまった。
そしてそんなものを目の当たりにしたシェリーは、
――そういえばJJが、龍人は性欲が強いって言ってたなー。じゃあこの行動もさもありなん。
などとのんびり考えていたりする。そういう現場を目の当たりにして羞恥に顔を染めるなど、シェリーには無縁だった。主にイヴォンの所為だが。
そんな感じにイチャイチャネチネチした二人は、暫くの後にやっと離れ、シェリーの冷たくも白い視線に気付いて決まりが悪そうに目を泳がせまくる。
「で――」
腕を組み、その視線のままにシェリーが訊く。
「一体ナニがどうなって私に絞め技を掛けるなんて真似をしたのよ」
「あ、ええと、その……ねぇ?」
「うん、だから?」
「あの……だから、ほら、それで……」
「ん?」
「あれが、そうなって、その、ねぇ、だから……」
「んん?」
「そういうワケなのよ」
「いや全然判んないよ!」
どうやら考えがまとまる前に、とりあえず突っ走った結果だったらしい。
その後エイリーンを正座させ、よーーーーーーく話しを聞いたところ、どうやら「ママ」と言われらのが殊の外嬉しくて思い切り抱き付いちゃったようだ。
具体的な理由として、龍人は非常に子が授かり難い種族であるため、いつ子宝に恵まれるか判らない。
中には生涯授かることなく繁殖期を終える個体もあるそうだ。
よって、龍人の女は母親になるということに強い憧憬を抱いているという。
先程シェリーがなんとなく言った「ママ」という一言は、言ってしまえばエイリーンという龍人の女が強く憧れているものでもあり、念願叶った瞬間だったのだ。
それに、シェリーはアイザックの娘である。そのアイザックから求婚されて了承した時点で、エイリーンはシェリーの継母になるのだ。たとえ自分と血の繋がりはなくとも、是が非でもそう呼んで欲しいと望むのは仕方のないことだろう。
「――なるほどね。理由は判ったし理解したわ」
正座しているエイリーンを見降ろし、溜息と共にそう零す。
関係ないが、そうやって正座しているエイリーンの隣でアイザックも仲良く正座しているのは、僅かながらも責任を感じての行動なのだろう。
パンツ一丁だけど。
「まぁ、お父さんと所帯を持つっていうのなら私にとってエイリーンは継母になるからそう呼ぶのは吝かでもないけど――」
シェリーの言葉に、一気に喜色を浮かべるエイリーン。だが言い淀んでいるシェリーに気付き、首を傾げながら眉を顰めた。
「ごめんね、出来ればザックが私のお父さんだって、黙っててくれないかな? 色々問題が起きそうでトラブルの元になりそうなの」
「ああ、そう考えるのは当然だな。イヴォンとエセル様――エセルの子供である筈のシェリーが、実は父親が別だったと知れれば色々付け込まれるし、なにより――」
数瞬だけ目を閉じてなにかを考え、そして身震いしてからアイザックは続けた。
「従業員どもに知れたら、俺が物理的に精神的に社会的に殺される!」
「自業自得だけどねー」
真の恐怖をリアルに想像しているアイザックへ、サラっとエイリーンが追撃をする。それに抗議の視線を送るのだがあっさり受け流され、そして更に頷くことでトドメを刺すシェリー。付き合いが長いし同性だということもあり、二人の息はピッタリだ。
「でも、三人のときは『お父さん』と『ママ』って呼ぶから、それで我慢してね」
シェリーがそう提案すると、互いに顔を見合わせてから、二人は了承した。
「でもシェリー」
その話しが終了したと判断して立ち上がりながら、エイリーンはシェリーに聞く。
「どうして『お母さん』じゃなくて『ママ』なの?」
それは素朴な疑問だった。訊いた側はそれほど深い考えがあったわけではない。
だから、その質問でシェリーが再び泣きそうに――だがそれでも心配をかけまいと口元に笑顔を浮かべようと苦心している様は、とてつもない衝撃だった。
「だって、だって――私には『お母さん』は一人だけだから……だから、ごめんなさい、エイリーンをそう呼べない……」
零れそうな涙を堪え、無理に笑顔を作ろうとしているシェリーを、エイリーンがそっと抱き締めた。勿論先程のように力任せにしたりしない。
「謝らなくて良いよ、シェリー。貴女にとってお母さんは、エセルさんは特別だから。大丈夫、あたしのことは今まで通りで良いから――」
「ううん、それはダメ。イヴォンとは別の意味でロクデナシなお父さんと結婚してくれる人だもん。詳らかには出来ないけど、ちゃんと認めた以上は相応に呼ばなきゃいけないよ。だから――」
顔を上げ、涙を拭って笑顔を見せる。今度は無理に作った笑顔ではない。
エイリーンの言葉が、気持ちが嬉しかったから。
もしかしたらイヴォンと結婚するかもと考え、そのときは彼女を「母親」と認めるのも仕方ないと覚悟が出来ていたのも事実であった。
だが違った形でそのようになり、それにそれは仕方なしではなく、言ってしまえば待ち望んでいた結果でもあったのである。
嬉しくない筈がない。
「これからもよろしくね、『ママ』」
大好きな――大好きだった「お母さん」を本当の意味で亡くしてしまった少女は、この日、失った筈の「お父さん」と、新たに「ママ」を――家族を取り戻した。
――*――*――*――*――*――*――
余談。
「シェリーーーーーーー! あたし嬉しい! ねぇねぇもう一回『ママ』って呼んで!」
「うわ! ちょっと力強いってば! 面倒臭いなホントに! ていうかまた締まってる締まってるってば! ギブギブギブギブギブ! お父さん助けて!」
「待てエイリーン! そんな全力で締めるんじゃない! つーかマジで力強いな! あーもー面倒臭ぇな本当に! シェリー、ちょっと目を瞑ってろ!」
「ほえ? あ、うん判った」
「え? ザックちょっとナニするの!? あ……ダメ、シェリーの前なのに……そんな特殊なプレイするなんて……でもちょっと燃えるかも……」
「(ナニが起きているんだろう? 気になるけど気にしたら負けのような気がする)」
「あ……ん……ザック、ダメ……ダメなのぉ……んん……ん……あ、らめぇーーーーーー!」
「……ふ、俺の勝ちだ……!」
「(うん、これ絶対気付いちゃいけないヤツだ。私まだお子ちゃまだからわかんにゃい)」
そしてそんな二人を白けた表情で見ているシェリーは、なんだか今にもナニかをおっ始めそうな雰囲気をなんとかしようと咳払いをする。
だがそうしたところで――
「なんか……シェリーの咳払いってエロいわね」
「そうなんだよ、だから従業員どもが喜んで仕方ないんだ」
「そういえばエセルさんの咳払いがエロいって、ザックもリーも喜んでたわね」
「いや待てそれに反応する男子は高確率で居るぞ」
「やっぱり男はケダモノね。シェリーも気をつけなさいよ」
そんな見当違いの注意をされるだけだった。それにそんな注意をされても、本気でどんな返答をすればいいのか困るだけである。
だから意趣返しのつもりで、ちょっと悪い笑みを浮かべて言った。
「うん、判った気をつけるよ。ママ」
そしてそれを聞いて、今度はエイリーンが固まる。シェリー、最高のしたり顔。
だが次の瞬間、
「もっと言ってシェリー! もっとママって言って!」
「ごげ!?」
「ひょえああああ!」
アイザックを突き飛ばしてそこから離れると、今度はシェリーを思いっ切り抱き締める。
その予想の遥か斜め上の行動に、思わずおかしな声を上げちゃうシェリー。どうやらエイリーンの何かの琴線に触れてしまったようだ。
ちなみにシェリーの悲鳴(?)の前のおかしな声は、突き飛ばされてちょうどあった柱へと強かに後頭部をぶつけたアイザックが漏らしたものである。
「待って待って待って! どうしたのよエイリーンさん! てか力! 強! 締まってる締まってる! ギブギブギブ!」
「違う!『エイリーン』じゃなくて『ママ』って言って! じゃないと離してあげない!」
「言う前に落ちちゃうから! ちょちょちょっと待――」
タップする手からカクンと力が抜けちゃうシェリー。どうやら無事(?)に落ちちゃったようだ。
そんな腕の中で脱力しているシェリーに気付き、
「え? どうしちゃったのシェリー! 気を確かに持って! シェリー! シェリーーーー!!」
「落ち着けい!」
落ちて脱力するシェリーをカックンカックン揺すりながら派手に慌てるエイリーン。そしてその頭にアイザックが手刀を振り下ろす。
エイリーンには全くダメージはなく、手の方が痛かったのはナイショの方向で。流石は龍人である。
「ザック大変! シェリーが動かなくなっちゃった!」
「お、おお、そうだな。ぶっちゃけお前のせいだけどな」
慌てるエイリーンからシェリーを取り上げ、胸の中心を数回押して呼吸をさせる。
すると即座に目を見開き、咽せ込みながら荒い息を吐き出して、シェリーは何故か周囲を見回した。
「ぶはぁ! あービックリした。なんか綺麗なお花が咲き乱れる川の向こうでお母さんが『こっち来んな! エイリーンのアホ!』って言ってたような気がするわ」
「臨死体験してんじゃねぇか……マジでなにやってんだよエイリーン」
若干冷や汗をかきつつ、アイザックはジト目でそのエイリーンを見るのだが、
「ああシェリー! 大丈夫!? 心配したわ!」
「〝大気の戦鎚〟!」
そんなことを言いながらまたしても抱き付こうと超高速移動で接近するエイリーンへ、ゼロ距離で魔法を放つシェリー。
エイリーンの着衣の所々がその衝撃で弾け飛ぶが、彼女自身は僅かに後退しただけだ。そして心なしか、瞳孔が爬虫類のように縦長になっているようにも見える。
恐るべき身体能力。龍人族の最強種である黄金龍は伊達ではない。というかそんな力で抱き付かれたら、今度こそ命は無いと真剣に考えるシェリー。
なので、
「お父さん助けて!」
先程初めてそうだと知った父へ助けを求めた。
「いい加減にしろエイリーン!」
その娘の声に応え、父親であるアイザックはエイリーンを後ろから抱きかかえるように持ち上げ、器用に半回転させて自分の正面を向かせると、
ズキュウウウン!
そのまま抱き締めてキスをする。
突然そんなことをされれば戸惑うのが当り前で、その例に漏れずにエイリーンも当然そうなったのだが、ちょっと落ち着いてくると今度はアイザックの頭を抱きかかえ、未成年にはちょっとどころか相当刺激が強過ぎるベロチューを始めてしまった。
そしてそんなものを目の当たりにしたシェリーは、
――そういえばJJが、龍人は性欲が強いって言ってたなー。じゃあこの行動もさもありなん。
などとのんびり考えていたりする。そういう現場を目の当たりにして羞恥に顔を染めるなど、シェリーには無縁だった。主にイヴォンの所為だが。
そんな感じにイチャイチャネチネチした二人は、暫くの後にやっと離れ、シェリーの冷たくも白い視線に気付いて決まりが悪そうに目を泳がせまくる。
「で――」
腕を組み、その視線のままにシェリーが訊く。
「一体ナニがどうなって私に絞め技を掛けるなんて真似をしたのよ」
「あ、ええと、その……ねぇ?」
「うん、だから?」
「あの……だから、ほら、それで……」
「ん?」
「あれが、そうなって、その、ねぇ、だから……」
「んん?」
「そういうワケなのよ」
「いや全然判んないよ!」
どうやら考えがまとまる前に、とりあえず突っ走った結果だったらしい。
その後エイリーンを正座させ、よーーーーーーく話しを聞いたところ、どうやら「ママ」と言われらのが殊の外嬉しくて思い切り抱き付いちゃったようだ。
具体的な理由として、龍人は非常に子が授かり難い種族であるため、いつ子宝に恵まれるか判らない。
中には生涯授かることなく繁殖期を終える個体もあるそうだ。
よって、龍人の女は母親になるということに強い憧憬を抱いているという。
先程シェリーがなんとなく言った「ママ」という一言は、言ってしまえばエイリーンという龍人の女が強く憧れているものでもあり、念願叶った瞬間だったのだ。
それに、シェリーはアイザックの娘である。そのアイザックから求婚されて了承した時点で、エイリーンはシェリーの継母になるのだ。たとえ自分と血の繋がりはなくとも、是が非でもそう呼んで欲しいと望むのは仕方のないことだろう。
「――なるほどね。理由は判ったし理解したわ」
正座しているエイリーンを見降ろし、溜息と共にそう零す。
関係ないが、そうやって正座しているエイリーンの隣でアイザックも仲良く正座しているのは、僅かながらも責任を感じての行動なのだろう。
パンツ一丁だけど。
「まぁ、お父さんと所帯を持つっていうのなら私にとってエイリーンは継母になるからそう呼ぶのは吝かでもないけど――」
シェリーの言葉に、一気に喜色を浮かべるエイリーン。だが言い淀んでいるシェリーに気付き、首を傾げながら眉を顰めた。
「ごめんね、出来ればザックが私のお父さんだって、黙っててくれないかな? 色々問題が起きそうでトラブルの元になりそうなの」
「ああ、そう考えるのは当然だな。イヴォンとエセル様――エセルの子供である筈のシェリーが、実は父親が別だったと知れれば色々付け込まれるし、なにより――」
数瞬だけ目を閉じてなにかを考え、そして身震いしてからアイザックは続けた。
「従業員どもに知れたら、俺が物理的に精神的に社会的に殺される!」
「自業自得だけどねー」
真の恐怖をリアルに想像しているアイザックへ、サラっとエイリーンが追撃をする。それに抗議の視線を送るのだがあっさり受け流され、そして更に頷くことでトドメを刺すシェリー。付き合いが長いし同性だということもあり、二人の息はピッタリだ。
「でも、三人のときは『お父さん』と『ママ』って呼ぶから、それで我慢してね」
シェリーがそう提案すると、互いに顔を見合わせてから、二人は了承した。
「でもシェリー」
その話しが終了したと判断して立ち上がりながら、エイリーンはシェリーに聞く。
「どうして『お母さん』じゃなくて『ママ』なの?」
それは素朴な疑問だった。訊いた側はそれほど深い考えがあったわけではない。
だから、その質問でシェリーが再び泣きそうに――だがそれでも心配をかけまいと口元に笑顔を浮かべようと苦心している様は、とてつもない衝撃だった。
「だって、だって――私には『お母さん』は一人だけだから……だから、ごめんなさい、エイリーンをそう呼べない……」
零れそうな涙を堪え、無理に笑顔を作ろうとしているシェリーを、エイリーンがそっと抱き締めた。勿論先程のように力任せにしたりしない。
「謝らなくて良いよ、シェリー。貴女にとってお母さんは、エセルさんは特別だから。大丈夫、あたしのことは今まで通りで良いから――」
「ううん、それはダメ。イヴォンとは別の意味でロクデナシなお父さんと結婚してくれる人だもん。詳らかには出来ないけど、ちゃんと認めた以上は相応に呼ばなきゃいけないよ。だから――」
顔を上げ、涙を拭って笑顔を見せる。今度は無理に作った笑顔ではない。
エイリーンの言葉が、気持ちが嬉しかったから。
もしかしたらイヴォンと結婚するかもと考え、そのときは彼女を「母親」と認めるのも仕方ないと覚悟が出来ていたのも事実であった。
だが違った形でそのようになり、それにそれは仕方なしではなく、言ってしまえば待ち望んでいた結果でもあったのである。
嬉しくない筈がない。
「これからもよろしくね、『ママ』」
大好きな――大好きだった「お母さん」を本当の意味で亡くしてしまった少女は、この日、失った筈の「お父さん」と、新たに「ママ」を――家族を取り戻した。
――*――*――*――*――*――*――
余談。
「シェリーーーーーーー! あたし嬉しい! ねぇねぇもう一回『ママ』って呼んで!」
「うわ! ちょっと力強いってば! 面倒臭いなホントに! ていうかまた締まってる締まってるってば! ギブギブギブギブギブ! お父さん助けて!」
「待てエイリーン! そんな全力で締めるんじゃない! つーかマジで力強いな! あーもー面倒臭ぇな本当に! シェリー、ちょっと目を瞑ってろ!」
「ほえ? あ、うん判った」
「え? ザックちょっとナニするの!? あ……ダメ、シェリーの前なのに……そんな特殊なプレイするなんて……でもちょっと燃えるかも……」
「(ナニが起きているんだろう? 気になるけど気にしたら負けのような気がする)」
「あ……ん……ザック、ダメ……ダメなのぉ……んん……ん……あ、らめぇーーーーーー!」
「……ふ、俺の勝ちだ……!」
「(うん、これ絶対気付いちゃいけないヤツだ。私まだお子ちゃまだからわかんにゃい)」