「20歳くらいかな? すごく大人っぽい子だよね」
「うん。でもネットで検索したけど正体が分からなくてさ」
「なんか響くんの新曲の発売と同時に女の子の情報も解禁されるらしいよ」
「そうなんだ。どんな子なんだろうね」
まさか“その子”が自分たちのちょうど真後ろにいるとは露ほども考えないだろう。
おかげで素直な感想をもらえて嬉しいやら恥ずかしいやら、とにかく私の正体が周囲にバレないように息を潜めていると、ふいに横からトントンと肩を叩かれた。
振り向けば、七海先輩が眩しそうに目を細めている。
「なぁ。初めて会ったとき、礼は“自分に自信を持った輝く人になりたい”って言ってたよな」
「は、はい」
「それ、叶ったじゃん。ここにいるみんな、礼の輝きに目を奪われてた」
誰にも聞こえてしまわないよう、耳元でこそりと囁かれた言葉に、私は胸がいっぱいになった。
なりたかった自分に、きちんと近づくことができている。
いつかの挫折や苦しみも、私を形作るひとつとなって、今、正しくきらめきを放っているのだろう。
すべての経験は無駄なんかじゃなかったことを感じて、私はこれ以上ないほどに満たされる心地がした。
ようやく待ち合わせをした最寄り駅まで戻ってきても、私の高揚感が薄れることはなかった。
先ほどの大型ビジョンでの放映のおかげか、SNSでは“MVの女の子”がトレンドワードにまでなったらしい。
記念にスマートフォンでスクリーンショットをしながら、どこかふわふわとした足取りで思う存分喜びに浸る。
するとふいに、となりを歩く先輩が「とうとう明日、礼も正式にデビューか」と呟いた。
「そうですね。でもまだ信じられないです」
「前評判ですらあんなにすごいんだ。きっとたくさん仕事が舞い込んでくるだろうし、すぐに実感もわくよ」
まだ見ぬ明日を想像して、先輩に照れ笑いを返す。
きっとこれからだって、私の人生はめくるめくほどに変わっていくだろう。
できることならあのMVのように、また人の目を引きつけられるような仕事がしたい。
ううん、あの仕事を何度だって超えてみせよう。
今までの自分では考えられないくらいに大きな野望を抱えていると、ふいに先輩がその場に立ち止まってしまい、私も釣られて歩みを止めた。
「活躍していく礼を近くで見られないのは、やっぱり残念だな」
別れを滲ませた突然の言葉にハッとする。
そのせいで、あんなにも浮かれていた私の目の前は一気に真っ暗になってしまった。
ずっと我慢できていたはずの涙でさえ耐えきれずに頬を伝い、慌てて両腕で顔を隠す。
「ははっ。礼、ずっと泣くのを我慢してただろ?」
「だって私が泣いてたら、先輩が安心して留学できないと思ったから」
「そっか。そんなに寂しくないのかと思って、俺はちょっとショックだったんだけどな」
「寂しいに決まってるじゃないですか!」
もう寂しいという言葉では表せないくらい、私の心はボロボロに擦り切れているのだ。
気を抜いたらすぐにでもその腕に縋りつきそうになりながら、けれどもそんな気持ちを見て見ぬふりすることで今日までなんとかやってきていた。
本当はずっと私のそばにいてほしい。
となりで同じ夢を見続けたい。
「でも、私はこれまで先輩にたくさん背中を押してもらいました。だから今度は私が先輩の背中を押す番なんです」
「うん。でもネットで検索したけど正体が分からなくてさ」
「なんか響くんの新曲の発売と同時に女の子の情報も解禁されるらしいよ」
「そうなんだ。どんな子なんだろうね」
まさか“その子”が自分たちのちょうど真後ろにいるとは露ほども考えないだろう。
おかげで素直な感想をもらえて嬉しいやら恥ずかしいやら、とにかく私の正体が周囲にバレないように息を潜めていると、ふいに横からトントンと肩を叩かれた。
振り向けば、七海先輩が眩しそうに目を細めている。
「なぁ。初めて会ったとき、礼は“自分に自信を持った輝く人になりたい”って言ってたよな」
「は、はい」
「それ、叶ったじゃん。ここにいるみんな、礼の輝きに目を奪われてた」
誰にも聞こえてしまわないよう、耳元でこそりと囁かれた言葉に、私は胸がいっぱいになった。
なりたかった自分に、きちんと近づくことができている。
いつかの挫折や苦しみも、私を形作るひとつとなって、今、正しくきらめきを放っているのだろう。
すべての経験は無駄なんかじゃなかったことを感じて、私はこれ以上ないほどに満たされる心地がした。
ようやく待ち合わせをした最寄り駅まで戻ってきても、私の高揚感が薄れることはなかった。
先ほどの大型ビジョンでの放映のおかげか、SNSでは“MVの女の子”がトレンドワードにまでなったらしい。
記念にスマートフォンでスクリーンショットをしながら、どこかふわふわとした足取りで思う存分喜びに浸る。
するとふいに、となりを歩く先輩が「とうとう明日、礼も正式にデビューか」と呟いた。
「そうですね。でもまだ信じられないです」
「前評判ですらあんなにすごいんだ。きっとたくさん仕事が舞い込んでくるだろうし、すぐに実感もわくよ」
まだ見ぬ明日を想像して、先輩に照れ笑いを返す。
きっとこれからだって、私の人生はめくるめくほどに変わっていくだろう。
できることならあのMVのように、また人の目を引きつけられるような仕事がしたい。
ううん、あの仕事を何度だって超えてみせよう。
今までの自分では考えられないくらいに大きな野望を抱えていると、ふいに先輩がその場に立ち止まってしまい、私も釣られて歩みを止めた。
「活躍していく礼を近くで見られないのは、やっぱり残念だな」
別れを滲ませた突然の言葉にハッとする。
そのせいで、あんなにも浮かれていた私の目の前は一気に真っ暗になってしまった。
ずっと我慢できていたはずの涙でさえ耐えきれずに頬を伝い、慌てて両腕で顔を隠す。
「ははっ。礼、ずっと泣くのを我慢してただろ?」
「だって私が泣いてたら、先輩が安心して留学できないと思ったから」
「そっか。そんなに寂しくないのかと思って、俺はちょっとショックだったんだけどな」
「寂しいに決まってるじゃないですか!」
もう寂しいという言葉では表せないくらい、私の心はボロボロに擦り切れているのだ。
気を抜いたらすぐにでもその腕に縋りつきそうになりながら、けれどもそんな気持ちを見て見ぬふりすることで今日までなんとかやってきていた。
本当はずっと私のそばにいてほしい。
となりで同じ夢を見続けたい。
「でも、私はこれまで先輩にたくさん背中を押してもらいました。だから今度は私が先輩の背中を押す番なんです」