たぶん、別れの時間が近づいていることをお互いに意識していたせいだろう。
なんとなく気まずく思いながら、それでも会話の糸口を見つけ出せずにいると、ふいに斜め前に座っていた見知らぬ他校の女子高生がきゃあと黄色い声を上げた。
「ねぇ、キョウくんのSNS見た?」
「見た! やっぱりかっこいいよねぇ!」
そのまま彼女たちの話を盗み聞きしていると、キョウくんとはどうやらあの芹沢響さんのことだと分かった。
噂どおり、彼は女の子たちから絶大な支持を集めているらしい。
そんな人と一緒に仕事ができただなんて、本当に大きな経験をしたのだなと実感していると、再び女子高生たちが悲鳴を上げるかのように騒めいた。
「えっ、待って! これから駅前の大型ビジョンで響くんのコメントとフル尺のMVが流れるんだって! ねぇ見に行こうよ!」
「行く! あのMVいいよね! 海外ロケだったんでしょ?」
駅前の大型ビジョンとは、いろんな企業の広告が映し出される次の停車駅の名物だ。
そのスケールの大きさから多大な広告費がかかると噂されているが、有名なアーティストさんともなると新曲の宣伝にコメントやMVを大々的に流すことがある。
芹沢さんの新曲の発売日もとうとう明日に迫っているから、最後の追い込みに販売促進の広告を出すのだろう。
あのMVがあの大きな画面で披露されるのかと、脇役出演である私にまで緊張が走る。
「俺らも行ってみるか?」
すると私と同じく二人の会話を聞いていたらしい七海先輩が、好奇心を隠しきれない様子で呟いた。
彼だって自分の携わった作品が大型ビジョンに映る瞬間を目にしたいのだろう。
気持ちがちょうど一致した私たちは、急遽次の駅で降りてMVを拝むことにした。
「うわ、すげー人」
「さすがですね、芹沢さん」
事前告知はゲリラ的なものであったようなのに、大型ビジョンの周りにはすでにかなりの人だかりができていた。
大勢の人波を掻い潜り、邪魔にならずに眺められる位置に待機する。
そのまま静かに見上げていると、企業のCMが流れていた画面は8時ちょうどになるなり切り替わり、パッと芹沢さんの姿を映し出した。
「みなさんこんばんは、芹沢響です。とうとう明日、僕のサードシングルが発売になります。タイトルは――」
あの日と変わらないきらきらとしたオーラをまといながら、芹沢さんは明朗に新作の作成過程やMVの見どころを次々に語っていった。
先ほどまで騒ついていた群衆は、しかし今は彼の一語一句を聞き逃すまいと真剣に見入っている。
私もその心地のいい声にうっとりとしていると、やがてとうとう映像がMVへと切り替わった。
「始まるな」
先輩が発した声にごくりと唾を飲み込み、一瞬も見逃さないように映像を目に焼きつける。
庭園のシーンや芹沢さんの歌唱シーンが映り、そしてサビで舞踏会のシーンにくると、階段を駆け下りる私のドレスのアップから、舞台の中の二人が仮面越しに見つめ合う場面になった。
私はこの大勢の人たちの目にどう映るのだろう。
そんなことを考えて足元から震えるような緊張を感じていると、ついに画面の中の私が仮面を外した。
途端に先輩が施したアイメイクが圧倒的なほどに美しく輝く。
その瞬間、周囲から息を呑むような音が聞こえた。
ねぇ、分かる?
すごいでしょう?
私と先輩でなら、世界だって魅了することができるんだよ。
「この女の子、ほんと綺麗……」
あまりにも生意気な、けれどけして驕りではない確信を持っていると、前方で私のことを呟く声が聞こえた。
なんとなく気まずく思いながら、それでも会話の糸口を見つけ出せずにいると、ふいに斜め前に座っていた見知らぬ他校の女子高生がきゃあと黄色い声を上げた。
「ねぇ、キョウくんのSNS見た?」
「見た! やっぱりかっこいいよねぇ!」
そのまま彼女たちの話を盗み聞きしていると、キョウくんとはどうやらあの芹沢響さんのことだと分かった。
噂どおり、彼は女の子たちから絶大な支持を集めているらしい。
そんな人と一緒に仕事ができただなんて、本当に大きな経験をしたのだなと実感していると、再び女子高生たちが悲鳴を上げるかのように騒めいた。
「えっ、待って! これから駅前の大型ビジョンで響くんのコメントとフル尺のMVが流れるんだって! ねぇ見に行こうよ!」
「行く! あのMVいいよね! 海外ロケだったんでしょ?」
駅前の大型ビジョンとは、いろんな企業の広告が映し出される次の停車駅の名物だ。
そのスケールの大きさから多大な広告費がかかると噂されているが、有名なアーティストさんともなると新曲の宣伝にコメントやMVを大々的に流すことがある。
芹沢さんの新曲の発売日もとうとう明日に迫っているから、最後の追い込みに販売促進の広告を出すのだろう。
あのMVがあの大きな画面で披露されるのかと、脇役出演である私にまで緊張が走る。
「俺らも行ってみるか?」
すると私と同じく二人の会話を聞いていたらしい七海先輩が、好奇心を隠しきれない様子で呟いた。
彼だって自分の携わった作品が大型ビジョンに映る瞬間を目にしたいのだろう。
気持ちがちょうど一致した私たちは、急遽次の駅で降りてMVを拝むことにした。
「うわ、すげー人」
「さすがですね、芹沢さん」
事前告知はゲリラ的なものであったようなのに、大型ビジョンの周りにはすでにかなりの人だかりができていた。
大勢の人波を掻い潜り、邪魔にならずに眺められる位置に待機する。
そのまま静かに見上げていると、企業のCMが流れていた画面は8時ちょうどになるなり切り替わり、パッと芹沢さんの姿を映し出した。
「みなさんこんばんは、芹沢響です。とうとう明日、僕のサードシングルが発売になります。タイトルは――」
あの日と変わらないきらきらとしたオーラをまといながら、芹沢さんは明朗に新作の作成過程やMVの見どころを次々に語っていった。
先ほどまで騒ついていた群衆は、しかし今は彼の一語一句を聞き逃すまいと真剣に見入っている。
私もその心地のいい声にうっとりとしていると、やがてとうとう映像がMVへと切り替わった。
「始まるな」
先輩が発した声にごくりと唾を飲み込み、一瞬も見逃さないように映像を目に焼きつける。
庭園のシーンや芹沢さんの歌唱シーンが映り、そしてサビで舞踏会のシーンにくると、階段を駆け下りる私のドレスのアップから、舞台の中の二人が仮面越しに見つめ合う場面になった。
私はこの大勢の人たちの目にどう映るのだろう。
そんなことを考えて足元から震えるような緊張を感じていると、ついに画面の中の私が仮面を外した。
途端に先輩が施したアイメイクが圧倒的なほどに美しく輝く。
その瞬間、周囲から息を呑むような音が聞こえた。
ねぇ、分かる?
すごいでしょう?
私と先輩でなら、世界だって魅了することができるんだよ。
「この女の子、ほんと綺麗……」
あまりにも生意気な、けれどけして驕りではない確信を持っていると、前方で私のことを呟く声が聞こえた。