「あとは靴か。トップスが白でデニムが青だから、定番だけどやっぱ赤が合うよな」

「トリコロールカラーと言うやつですね!」

トリコロールカラーとは、フランスの国旗に使われている青・白・赤の組み合わせのことだ。
これらの色でコーディネートを揃えると、まとまりが出て爽やかなイメージになるのだ。

「礼も言うようになってきたな。靴も俺が探してきてやるから、礼はそのあいだに試着してろよ」

「はい!」

大きく返事をした私は、先輩からブラウスとアクセサリー類を受け取り、飛び込むようにして試着室へと入った。
ドキドキと高鳴る鼓動をそのままに、目の前にブラウスを掲げ、またじっくりと眺める。
こんなかわいい洋服を私が着て、本当にいいのだろうか。
そう思う気弱な心は否定できないけれど、鏡に映る紅潮した自分を見つめて、心を決めた。

大丈夫。
私も周りの子たちのように、メイクをしたりかわいい服を選んだりできるんだって、先輩が教えてくれた。
それに私自身がこんなにもワクワクと楽しんでいるのだから、ためらう必要なんかない。
こんなこと、きっと少し前の私では考えられなかっただろう。
見た目だけでなく、私の心の中まで変えてしまうなんて、やっぱり先輩は本物の魔法使いみたいだ。

「おお、いいじゃねーか! 似合ってる似合ってる!」

先輩が息を弾ませて戻ってきたのは、ちょうど私が試着をし終えたころのことだった。
着替えた私を目にした彼は、とても満足そうな笑みを見せてくれている。

「どうだ、着てみた感想は」

「まだちょっと恥ずかしいですけど、なんだかすっごく嬉しいです!」

「そっかそっか! うん、いい顔してるもんな」

そう言われて、にやけていた口元を両手で隠す。
けれどたしかに、かわいらしい服が似合わないと思っていた私だけれど、鏡に映った自分の姿は悪くないように見えた。
それどころか先輩が言ってくれているとおり、“似合ってる”と言っていいんじゃないかと思えるくらいだ。
もう一度自分の服に目を落とすと、ブラウスの裾が私の動きに合わせて柔らかになびき、なんだかとてもくすぐったくなった。

「俺もいい靴見つけてきたからさ、さっそく履いてみてくれよ」

そんな自分の姿を面映ゆく感じていると、先輩はシューズショップの袋を勢いよく私に差し出した。
ひとつ頷いてからそれを受け取り、ビニール素材の袋の中から白い靴箱を取り出す。
箱には金字の細い筆記体でブランドの名前が刻まれており、その名前からどう見ても女性物の靴だろうと察しがついた。
靴だって、かわいいものを履いたことなどほとんどない。
そんなことを考えながら、おそるおそるフタを開けてみる。

「わ、きれい……」

箱の中には、柔らかい紙のクッション材に包まれた赤いパンプスが収められていた。
傷つけないようにゆっくりと取り出し、両手の平に乗せて眺めてみる。

「ボーイッシュなコーデのときは、足元をキレイめにするとバランスがいいんだ」

「なるほど」

先輩の言うとおり、パンプスはシンプルで綺麗な形をしていた。
色ははっきりとした鮮やかな赤だけれど、素材には控えめな艶があり、キツい印象はない。
かかと部分はウエッジソールという、靴底にくぼみのない安定感のある形のものなっていて、これはとても歩きやすそうだ。
履いてみれば、まるでシンデレラの有名なワンシーンのように、私の足はぴったりとパンプスに収まった。