メッセージアプリは昨日の夜から動いていなかった。そのメッセージは送信者のところに見慣れぬ文字が表示されていたが、無視した。しかし、これが、後悔先に立たずになろうとは、まさか金曜病ウイルスの犯人とつながりができているなんて思ってもみなかったことだ。「このアカウントの人と知り合いですか? メッセージが来たので一応確認のために……」という彼女からの質問に対して「いいえ」と答えた私は、今度こそメッセージを削除しようと思った。削除ボタンを押そうとするとその画面を見て、笹谷さんが、「あぁーこれですね、この前送られてきたんです。私が家に帰ることをお願いするために」と言ってきた。私は「なんのことかわかりませんけど消させて頂きますね」と言ったのだが、彼女はそれを遮ってこういった。
「私達でこの人の願いを叶えませんか?」と。
私はそれについて少し考えた後でこう返事した。
「でももういいですよ、私達が頑張らなくても」と。するとそれに対して返ってきたのは 【わかった。じゃあ明日も連絡よろしくね】
という言葉だった。私はその文章をもう一度よく読んでみるとそこには『母に』と書かれていた。私はその瞬間何かがひらめいて、笹谷さんの顔を見る。「どうしたんですか?……笹谷さん」
そう言った直後、笹谷さんのスマホに電話が掛かってくる。
「……もしもし、……はい、今家に来ています、……わかりました。それでは明日また」
7 次の日の晩、私は学校帰りに駅前の花屋によってバラとカスミソウを買った。店員さんは今日が母の日であることに気づいているらしく笑顔で迎えてくれた。
私は家路についた。8 笹谷さんが玄関のドアを開けたと同時に、私は大きな声でただいまと叫んだ。それに驚いた様子を見せる彼女だったが、すぐに満面の笑みを見せてきた。そしておかえりと言う。私は彼女の顔を見ながらゆっくりと歩みを進めた。彼女は私に向かって歩き始めたのだが、その途中私は、持っていた袋の中から小さな花束を取り出し、それを彼女の胸元へ持っていった。そして、 彼女に渡した。
笹谷さんは、突然の出来事に戸惑っている。そんな様子を見た私はふっと笑う。
私は彼女を抱き寄せ、彼女の肩に手を置いて彼女の目をじっと見つめた
「お誕生日おめでとうございます」
8 田中さんから花束を受け取った私はその場に立ち尽くしていました。私は、目の前に立つ彼女を見ていました。彼女も私を見てくれていました。でも何も言葉を発することもなく私は、私の中の気持ちを伝えようとしました。すると私の中にあった思いが自然と口をつきました。「どうして」
それは彼女の方も同じみたいで、
「なんで」
二人の間に沈黙が生まれました。でもそれは決して悪いものでは無く、心地の良い、静寂のような時間です。
しばらくして私が
「さようなら」
と呟くと彼女が「お元気で」と返してきました 私たちはお互いの姿を目に焼き付けるようにしながら、手を振って別れの挨拶を交わしました それが、最後になりました。
それから数日後の夜10時頃でした 私のスマートフォンからメッセージを知らせる通知音が鳴りました メッセージを開く前にそれは着信画面に切り替わりました 電話を掛けて来た相手の名前には 田中さん の文字がありました 私はその画面をしばらく見たあと、電話をかけなおしました 数秒の呼び出し音の後に田中さんは出てくださいました。私は、
『今どこにいますか?』
『……え、今から』……私は今から田中さんの家に向かいます 田中さんの居場所を見つけ出せれば良いのですが、どうなるかはわかりません 田中さん 私は今からあなたのお母さんのお墓へ向かいたいと思います 私がその場所に辿り着いた時にあなたがいなければ私は絶望します 田中さん、私はまだ生きていたいですまだあなたと一緒に過ごしていたい だから田中さん、私のことを見つけ出してもらえませんか?
『見つけ出したらどうするの?』
あなたに会えなくなることを考えるだけでも恐ろしいことですが、それよりも辛いことがあるかもしれません。
でも、もし会えたならば そのとき私は、きっとあなたに、伝えておきたい言葉があります
「愛しています。これからも、ずっと」と 9 夜中に母の墓標へとやってきた私は田中さんが言っていた通りに線香と花を供えてから、田中さんのお父さんのことについて聞いてみることにしました。すると母が「あの子は私の子供よ、あんたがどう思っていても、私は絶対にあいつから離れないし」と言ってくれたことが嬉しくなって、思わず泣きそうになってしまい、必死になって堪える。「じゃあそろそろ帰るか……」とつぶやいたときにふと思い出して、田中さんから送られてきたメッセージの送り主を確認してみると
「あれ、この名前って確か」
「私達でこの人の願いを叶えませんか?」と。
私はそれについて少し考えた後でこう返事した。
「でももういいですよ、私達が頑張らなくても」と。するとそれに対して返ってきたのは 【わかった。じゃあ明日も連絡よろしくね】
という言葉だった。私はその文章をもう一度よく読んでみるとそこには『母に』と書かれていた。私はその瞬間何かがひらめいて、笹谷さんの顔を見る。「どうしたんですか?……笹谷さん」
そう言った直後、笹谷さんのスマホに電話が掛かってくる。
「……もしもし、……はい、今家に来ています、……わかりました。それでは明日また」
7 次の日の晩、私は学校帰りに駅前の花屋によってバラとカスミソウを買った。店員さんは今日が母の日であることに気づいているらしく笑顔で迎えてくれた。
私は家路についた。8 笹谷さんが玄関のドアを開けたと同時に、私は大きな声でただいまと叫んだ。それに驚いた様子を見せる彼女だったが、すぐに満面の笑みを見せてきた。そしておかえりと言う。私は彼女の顔を見ながらゆっくりと歩みを進めた。彼女は私に向かって歩き始めたのだが、その途中私は、持っていた袋の中から小さな花束を取り出し、それを彼女の胸元へ持っていった。そして、 彼女に渡した。
笹谷さんは、突然の出来事に戸惑っている。そんな様子を見た私はふっと笑う。
私は彼女を抱き寄せ、彼女の肩に手を置いて彼女の目をじっと見つめた
「お誕生日おめでとうございます」
8 田中さんから花束を受け取った私はその場に立ち尽くしていました。私は、目の前に立つ彼女を見ていました。彼女も私を見てくれていました。でも何も言葉を発することもなく私は、私の中の気持ちを伝えようとしました。すると私の中にあった思いが自然と口をつきました。「どうして」
それは彼女の方も同じみたいで、
「なんで」
二人の間に沈黙が生まれました。でもそれは決して悪いものでは無く、心地の良い、静寂のような時間です。
しばらくして私が
「さようなら」
と呟くと彼女が「お元気で」と返してきました 私たちはお互いの姿を目に焼き付けるようにしながら、手を振って別れの挨拶を交わしました それが、最後になりました。
それから数日後の夜10時頃でした 私のスマートフォンからメッセージを知らせる通知音が鳴りました メッセージを開く前にそれは着信画面に切り替わりました 電話を掛けて来た相手の名前には 田中さん の文字がありました 私はその画面をしばらく見たあと、電話をかけなおしました 数秒の呼び出し音の後に田中さんは出てくださいました。私は、
『今どこにいますか?』
『……え、今から』……私は今から田中さんの家に向かいます 田中さんの居場所を見つけ出せれば良いのですが、どうなるかはわかりません 田中さん 私は今からあなたのお母さんのお墓へ向かいたいと思います 私がその場所に辿り着いた時にあなたがいなければ私は絶望します 田中さん、私はまだ生きていたいですまだあなたと一緒に過ごしていたい だから田中さん、私のことを見つけ出してもらえませんか?
『見つけ出したらどうするの?』
あなたに会えなくなることを考えるだけでも恐ろしいことですが、それよりも辛いことがあるかもしれません。
でも、もし会えたならば そのとき私は、きっとあなたに、伝えておきたい言葉があります
「愛しています。これからも、ずっと」と 9 夜中に母の墓標へとやってきた私は田中さんが言っていた通りに線香と花を供えてから、田中さんのお父さんのことについて聞いてみることにしました。すると母が「あの子は私の子供よ、あんたがどう思っていても、私は絶対にあいつから離れないし」と言ってくれたことが嬉しくなって、思わず泣きそうになってしまい、必死になって堪える。「じゃあそろそろ帰るか……」とつぶやいたときにふと思い出して、田中さんから送られてきたメッセージの送り主を確認してみると
「あれ、この名前って確か」