『昨日の朝、田中さんからメッセージがきました。今日一日お願い、できるだけ早く帰って欲しい。どうしても帰りたい人たちのために早く家へと帰りたい。どうやら父は自分の居場所を見つけ出すためにウイルスを作り出していたようです。もちろんそんなウイルスなんて簡単には作れやしません。でもこのメッセージを見て私はその可能性を確信しました。今から彼女のもとへ向かわせて下さい』
どうやらこのメッセージを読んでいる間は母がここにいないようだが、それは本人が誰かに聞かれたくないのかもしれない。
「なんだろうこれっていうか私はなんでこんなこと送ってるんだろう……」
気になってメッセージをクリックした。すると今度はメッセージと同じ文面で、
『本当にごめん!!本当にごめん、私から連絡が遅れて。ごめんなさい、本当にごめんね。……もしもし』
という表示が出てきた。
「なんじゃらほーん……」
「お疲れ様、あれ」
そういえば母が言っていたのだが、母が亡くなってからずっと連絡が途絶えている。それを聞いて少し安心する。今ならきっと母を呼んでくれると思った。それに父からの連絡で帰ってこなくても母に心配したってもらえるからだ。母とふたりで話したい。でもどうしていいのかわからない。……こんな私であるが家に帰ったらきっと母は怒るだろう。だからそんな言葉が頭に浮かんだ。そんなことは私は絶対に嫌だ。どう考えてもあいつは自分の居場所を見いだしてくるだろうし。それなのにどうして私は母の居場所を見いださなかったんだろうな。あいつがどんどん来なくなるじゃねぇか。なんで自分が来てないって思わされねぇんだ。
「……とりあえず家に帰って寝よう」
と思ってベッドに入ろうとしたとき、ふとメッセージが入った。
【明日も学校だから寝たら連絡して。明日も学校だから寝よう】と。
ん? 明日は学校? 私は思わずメッセージに既読を付けた。
【明日は休みだけど大丈夫?】
【大丈夫大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから】
【わかった。じゃあおやすみ】
寝ぼけた頭の中を駆け巡るメッセージを見ながら私は思わずメッセージの送り主の文面を読み直した。
【明日も休み。学校休んでいいから】
【わかった。じゃあえっと、おやすみ】
母さんごめん。私はスマホを枕元に置きメッセンジャーを外した。でもまさかこれが最後の会話になるとは思わなかった。金曜病ウイルスが
、金曜日にしか活動しなかったことが唯一の救いだったと思う 五月二十四日 0時00分
(木曜日 深夜)
5 田中さんの家のインターホンが鳴り、私はモニターを確認した。すると、
「笹谷さん!?」「田中さん!!」
彼女は急いで出てきたようで肩が大きく上下している。「田中さ~ん!」と言って抱きつかれた私はそのまま玄関先で倒れこんでしまった。「いったい何があったんですか!一体どうして今まで連絡してくれなかったんですか、どれだけ待ったと思っているんですか、本当に田中さんじゃないんですか、本当にあのメッセージの通りの人が?」「はい、そうです」
彼女の腕の力が強まり私への抱擁はさらに強まったように感じた。彼女の顔が胸に押し付けられる。そして彼女が口を開いた。
「やっとあなたに会えた……。良かった、田中花子さん、生きていて本当によかった……」
彼女の吐息の温かさを感じながら、その声の響きを聴いて、そしてその胸に頬を押し付けられながらも、
「……っぐ」
私の目からは大粒の涙が流れた。
6 笹谷さんの身体を引き離すと彼女の手を取り二階にある私の部屋まで引っ張っていった。「ここに座ってください」と彼女に座るように促すものの、まるで自分の場所だと言わんばかりに笹谷さんは床の上に正座をした。その姿を見た私は笑ってしまった。そして、 笹谷さんを抱きしめてあげたくなったので私も同じように床に正座をして、彼女を強く抱いた。……どのくらいの間こうしていただろう、しばらくそうしたあと、私達は互いの顔を見て少しだけ笑いあった。そこで笹谷さんは急にはっとして、自分のスマホを手に取ってメッセージを確認する。
どうやらこのメッセージを読んでいる間は母がここにいないようだが、それは本人が誰かに聞かれたくないのかもしれない。
「なんだろうこれっていうか私はなんでこんなこと送ってるんだろう……」
気になってメッセージをクリックした。すると今度はメッセージと同じ文面で、
『本当にごめん!!本当にごめん、私から連絡が遅れて。ごめんなさい、本当にごめんね。……もしもし』
という表示が出てきた。
「なんじゃらほーん……」
「お疲れ様、あれ」
そういえば母が言っていたのだが、母が亡くなってからずっと連絡が途絶えている。それを聞いて少し安心する。今ならきっと母を呼んでくれると思った。それに父からの連絡で帰ってこなくても母に心配したってもらえるからだ。母とふたりで話したい。でもどうしていいのかわからない。……こんな私であるが家に帰ったらきっと母は怒るだろう。だからそんな言葉が頭に浮かんだ。そんなことは私は絶対に嫌だ。どう考えてもあいつは自分の居場所を見いだしてくるだろうし。それなのにどうして私は母の居場所を見いださなかったんだろうな。あいつがどんどん来なくなるじゃねぇか。なんで自分が来てないって思わされねぇんだ。
「……とりあえず家に帰って寝よう」
と思ってベッドに入ろうとしたとき、ふとメッセージが入った。
【明日も学校だから寝たら連絡して。明日も学校だから寝よう】と。
ん? 明日は学校? 私は思わずメッセージに既読を付けた。
【明日は休みだけど大丈夫?】
【大丈夫大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから】
【わかった。じゃあおやすみ】
寝ぼけた頭の中を駆け巡るメッセージを見ながら私は思わずメッセージの送り主の文面を読み直した。
【明日も休み。学校休んでいいから】
【わかった。じゃあえっと、おやすみ】
母さんごめん。私はスマホを枕元に置きメッセンジャーを外した。でもまさかこれが最後の会話になるとは思わなかった。金曜病ウイルスが
、金曜日にしか活動しなかったことが唯一の救いだったと思う 五月二十四日 0時00分
(木曜日 深夜)
5 田中さんの家のインターホンが鳴り、私はモニターを確認した。すると、
「笹谷さん!?」「田中さん!!」
彼女は急いで出てきたようで肩が大きく上下している。「田中さ~ん!」と言って抱きつかれた私はそのまま玄関先で倒れこんでしまった。「いったい何があったんですか!一体どうして今まで連絡してくれなかったんですか、どれだけ待ったと思っているんですか、本当に田中さんじゃないんですか、本当にあのメッセージの通りの人が?」「はい、そうです」
彼女の腕の力が強まり私への抱擁はさらに強まったように感じた。彼女の顔が胸に押し付けられる。そして彼女が口を開いた。
「やっとあなたに会えた……。良かった、田中花子さん、生きていて本当によかった……」
彼女の吐息の温かさを感じながら、その声の響きを聴いて、そしてその胸に頬を押し付けられながらも、
「……っぐ」
私の目からは大粒の涙が流れた。
6 笹谷さんの身体を引き離すと彼女の手を取り二階にある私の部屋まで引っ張っていった。「ここに座ってください」と彼女に座るように促すものの、まるで自分の場所だと言わんばかりに笹谷さんは床の上に正座をした。その姿を見た私は笑ってしまった。そして、 笹谷さんを抱きしめてあげたくなったので私も同じように床に正座をして、彼女を強く抱いた。……どのくらいの間こうしていただろう、しばらくそうしたあと、私達は互いの顔を見て少しだけ笑いあった。そこで笹谷さんは急にはっとして、自分のスマホを手に取ってメッセージを確認する。