誰だよ、一般人を殺さないなんて言ったの。
本当に誰だよ。
あの後、私は奴らに捕まって猿轡と袋を被せられたかと思ったら、急に何処かに連れていかれた。
そして、どっかの倉庫に投げ捨てられてそのままバイバイだ。
どうしてくれるんだ。
あのままなら、何とか屋敷に戻れそうだったのに。
何も知らない場所に連れてこられて、またゼロからやり直しだ。
縛られていない足で、何とか頭の袋を取れないか藻掻いてみる。
しかし、身体が固すぎて届かない。
……もう、もう少しなのに届かない。
元の身体の持ち主は、もっと運動しろ。
引きこもりオタクの私でももう少し柔らかかったはずだ。
次の手段として、膝を使って取ることにした。
両膝を付いた状態で袋を膝で何とか引っ張ろうとしてみる。
しかし、目の前が見えないから、上手く掴めているのかも分からなかった。
どうして!?
飛び跳ねたり、頭を振ったりして袋が落ちないか試してみたが、あまり変化がなかった。

「だ、誰かいませんか……」

もしかしてと思い、呼んでみた。
返事はなし。
モゴモゴと聞きづらかったのかもしれない。
もう一度呼んでみるが、変わらなかった。
周囲に物音がしていなかったが、やはり、人は居ないようだ。
助けを待つしかないのだろうか。
お嬢様が迎えが来ないことを不思議に思って、捜索願を出すことを願うしかないのか。
出会って数時間のお嬢様だが、私にはわかる。
絶対にありえない。
「使用人が居なくなったからってそんなに騒ぐこと?」とか言って、ほっとかれてお陀仏だ。
なら、この身体の家族とか。
父親か母親がいれば、連絡してくれるだろう。
たとえ連絡できても、捜索して助けてくれるだろうか。
ここが何処か分からないが、見つかるまで探してくれるとは限らない。
家出で処理されてしまうかも。
……不味い。
このままだと、私は孤独死のバットエンドに突入する。

「誰か!!助けて!」

近くを誰かが通るかもしれない。
他に希望がないなら、これに賭けるしかない。
声が枯れてしまうが、脱出が最優先だ。
この時、私は攫ってきた連中が近くに潜んでいるという考えは頭になかった。
だから、こんな無謀な行動ができたといえる。
目撃者を消せば楽にすむのに、態々連れて来た。
その理由は……

真後ろで、低い鳴き声がした。
ピタリと動きを止め、耳を澄ます。
爪を立てて歩く音が1つ……2つ……3つ……4つ……多くないか?
暗闇で先が見えないせいで、余計に音がはっきりと聞こえる気がする。
足音は、私の目の前で止まった。