いつの間にか気がついたら、私は馬車の御者になっていた。
しかも、公爵家の。
車と違って乗り心地最悪だし、お嬢様の機嫌は悪いし……本当に最悪だよ。
私が目覚めたのはつい最近。
昨日のことである。

「スズラン公爵家の別荘までお願いしますわ」

「畏まりました。直ぐに出発いたします」

急に声をかけられたと思ったら、無意識で言葉を発していた。
当たり前のように。
私は、何時ものように馬に鞭を打って走らせた。
何時もと言っても、私には覚えがなく感覚でと言った方がいいかもしれない。
それでも何とかなったから、そこまでは良かった。
走らせた後だった。
問題が発生した。
……場所わからん。スズラン公爵家って何。

「お嬢様。お休みのところすみません。スズラン公爵家の別荘ってどこにありましたっけ?」

「何言っていらっしゃいますの!?それは、こう行ってドーンって行ったところですわ!さっさと言ってくださいまし!」

「畏まりました」

こんな御者を雇うなんて、公爵家も落ちぶれたものですわ……とブツブツ言っているのが聞こえるが知らない。
私だって目覚めて直ぐに馬車を動かせなんて無理に決まっている。
どうしたらいいのか。
とりあえず、お嬢様の言う通りにこう行ってドーンと行くしかないのだろう。
土地勘が無さすぎて分からない。
転生ものである感じで何故か土地勘が備わっているみたいなのを期待したかった。


「今日の御者は最悪でしたわね。公爵家の名に相応しくない慌ただしさ。私の御者をお貸ししましょうか?」

着いて早々そう言われた。
お嬢様は「調子が悪いようで」と言って、にこやかに返しているが、眉間にシワがよっている。
しかも、私の方を睨んでいる。
私だって頑張ったと思う。
お嬢様の言葉を頼りにとにかく馬車を走らせて、ここに着いたのだから。
お嬢様方は何か話すと、別荘の中に入っていた。
勿論、私を置いて。
私は、頭を下げて「いってらっしゃいませ」と言った。
礼儀だけは尽くさなくては。
ここがいつの時代か分からないが、公爵家云々言っているところからすると、私がいた時代とはかなりかけ離れているようだ。
下手を打てば打首とか……
考えるだけで寒気がする。
何としても打首、国外追放を回避しよう。
異世界転生系でよくある悪役令嬢ではないのだから、何とかなるはず。
死亡フラグなんてないと思うし。
私は馬車に乗り込み再び馬車を走らせた。
思えばこの時に色々と時間を使いすぎたのかもしれない。
私は後に後悔することになる。