「あのさ、高野」
 私は目前に広がる自分の町を見下ろしながら切り出した。
「うん?」
 何も分かっていない高野の声。
「高野」
 自分の声が震える。高野の顔を見るのが恐かった。視線が自然と下がった。
「うん」
 高野はさっきから「うん」しか言わない。私がそうさせているのだろうけど。
 だめだ。このままでは日が暮れる。
 私は一度目をぎゅっとつぶると、意を決して高野を見た。
 高野は後ろに手をついて、気持ちよさそうに目を細めている。これから私が告白するなんて思ってもいないのだろう。
「高野。あのさ、ちゃんと聞いてくれる?」
 泣きそうな声が出てしまった。高野は驚いたように私を見て、後ろについていた手を腿の上に乗せた。
「佐原?」
 私を見る高野の瞳には戸惑うような光が宿っていた。
 私は息をすぅっと吸った。
「高野。……私」
 私は高野の前で初めてその一人称を使った。
「え?」
 高野は目を見張って聞き返す。
「私、ね、高野が好きなんだ」
 高野はごくりと唾を飲んだ。穴が空きそうなほど私を見つめている。
「えっと。佐原の話って……」
 掠れた声が高野の口から洩れた。私は高野の目を見つめ返して頷いた。
「うん。告白したかったの。あのね、友達の、好き、じゃないから」
 高野は、
「俺に……?」 
 と右の手の甲で鼻を擦った。
「そっか」
 高野はそれだけ言って黙ってしまった。
 私はぎゅっとズボンの腿の辺りを握りしめた。沈黙が痛い。長い。怖い。
 でも、まだ全部言えてない。これだけでは誤解される。
「私」
 もう一度言葉を紡ぐ。高野は真剣な目で私を見た。
「見かけはこうだけど」
「うん。それは分かってる」
 言い出した私を高野が遮った。
「え?」
 今度は私が驚く番だった。
「佐原は、『女の子』なんだよな。女として俺を好きなんだろ?」
「な、なんで?」
 悲鳴のような声が出た。
「そんなの、ずっと一緒いりゃ分かる。お前、ときどき、普通の女子より女っぽいから」
 高野は困った笑顔を浮かべてそう言った。
「いつ、から、気付いてたの?」
「えーっと、7月くらいから?」
 じゃあ、高野は知ってて私と一緒にいたの?
「気持ち悪く、ないの?」
 高野ははあ〜と息を吐いた。
「佐原。お前の目には俺はそんなやつに映ってるのか?」
 私は慌てて首を横に振った。
「ち、違っ!」
「でも、まあ、そっか。佐原は俺が好きだったのか。そっか」
 高野は何度もそっか、と繰り返した。