カーテン越しに差し込む光が朝を告げる。
 結局眠れなかった。
 鏡に映った私は、目の下にはっきりとクマができていて、いつもよりさらに不細工だった。
 神妙な気持ちで母の作った卵焼きを食べていると、
「具合悪いの?」 
 と母が心配そうに私を見た。
「大丈夫。ごちそうさま。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 私は目印でもある大嫌いな制服を身にまとい、家を出た。
 高校までの三十分。私はひたすら放課後のことを考えながら歩いた。信号がいつ青になって、いつ校門をくぐったかさえも記憶になかった。

 講堂に集められて、校長が長々と何か言っている最中、私はちらりと高野の方を盗み見た。高野は相変わらずこくりこくりとしながらも目を擦って、完全に眠ってしまわないように耐えていた。流石に立ったまま寝るのは危ないけれど、そんな姿がやっぱり高野だなあと思って、胸がきゅっとなった。
 高野。今日、私、あなたに告白しようと思ってるんだよ?
 高野に心で話しかける。もちろん高野は気付かない。

 講堂からぞろぞろと教室に戻るとき、私は緊張を隠して高野の背中をぽんと叩いた。
「今日も部活ある?」
 高野は私を振り向いていつものように笑った。この笑顔、告白後は見られなくなるかもしれないのだ。そう思うと身が引き裂かれそうになる。私は必死で泣くのを堪えた。
「おう、佐原。部活は今日はないけど、なんか用か? 昼飯でも食いにいく?」 
 何も知らない高野は無邪気に聞いてくる。
「うーん、昼はまあ、今度にでも。ちょっと話したいことあるから、一緒帰ろう?」
「いいぜ」
 高野は快諾した。
 高野と帰るのもきっと最後になる。そう思うと胸が傷んだけど、私は精一杯笑顔を作った。