不意に風が吹いて、窓の外を見つめた。朝も夜も眠れないくらいにうるさかったセミの鳴き声は大分静かになって、目を瞑ってぬるい風に吹かれる。腕の中では小さな命がスヤスヤと寝息を立てていた。あまりに愛おしくて、すぐに泣きそうになってしまう。

夏のよく晴れた日に生まれたこの子の事を、陽夏(はるか)と名付けた。聞くだけでポカポカとするような名前が良いと言ったら最初はなにそれ、と笑われてしまったけれど、一緒に真剣に考えてくれた。どうしても夏という漢字を入れたくて、その理由は彼には秘密だった。「夏生まれだから」そう言ったけど本当はそれだけじゃない。彼女と一緒にいた日々を思い出すと、決まって夏の風景が浮かんでくるからだ。セミの大合唱と、泣きたくなるくらい青い空と、炎天下の中で食べたアイスの味と。夏は私にとって特別な季節で、特別なあなたの名前に入れたかった。

世界のすべてを憎む気持ちも、泣きたくなるほど愛おしい気持ちも、私にはある、ずっとある。振り回されてクラクラしてしまうけど、でも、それでいいや。人を殺したいと思う気持ちも、自分を犠牲にしても守りたいと思う気持ちも、きっと皆に同じようにある。存在している。ただ息を潜めているだけだ。

陽夏が小さな口を開いてあくびをするから、思わず私もあくびが出てしまった。一つだけ考え事をしながら、彼女のあまりにも温かいの体温を感じてそのまま目を閉じた。あの日から、ずーっと考えている事だ。


ねえ、いつか、教えてくれないだろうか。





殺人鬼に憧れるほど、大好きな人に殺されたいと願うほど、どこにも行かないでと縋ってしまうほど、どこかで生きてさえいればいいと心の底から思うほど。このどうにもできない強い衝動に、感情に、ドロドロの本心に、今ならあなたは、何て名前をつけるのだろう。