どうして彼に惹かれたのかは、いまだにわからない。分からないと言うよりもピンと来る言葉が思いつかないといったほうが正しいのかもしれない。好きな人のどこが好きと聞かれ、数秒考えても出てこない。しかし、好きな理由がわからないからといって好きではないと言うことでもなく、間違いなくあの頃の私にとって彼は、好きな人だった。
大学三回生の春。アルバイト先のカフェへ彼が初めて来店した。いつものように丁寧に挨拶をし、注文を受けた。同い年かな?年上かな?自分と同じ年齢くらいの男性が来店することが少ないこともあってか、彼のことをひたすらに分析していた。いや、分析というより、きっと彼のことが知りたかった。私の心は蹴りあげられるかのように一瞬にして彼に惹きつけられてしまった。
「今日から新しいアルバイトの方が入りました。咲田さん!トレーニングよろしくね!」
今日は新しいアルバイトスタッフが来ると聞かされていた。初めての後輩にワクワクしていた私は、相手がどんな人なのか知りたくて仕方がなかった。
と、その時、初めてアルバイトの子と目があった。
「・・・・・え・?」
心では叫ぶような声で溢れ出たはずの言葉が、実際には声にならなかった。
驚きと歓喜と興奮。そんな忙しない感情が一気に私の中で混ざり合う。
「初めまして。今日からお世話になります。大久保と言います。ここのカフェは以前一度だけ来たことがあって・・・」
そう。新しいアルバイトはあの時のお客さんだったのだ。
時は経ち。私たちはすぐに仲良くなった。年は私よりも一つ下。大学二回生らしい。彼は、明るく人懐っこい性格とスラッとした容姿でお客さんの心はもちろんのこと同じアルバイトの心もかっさらっていった。
もちろん、ほぼ一目惚れしたといっても過言ではないように、私の彼を想う気持ちも日が経つにつれて大きくなっていった。
アルバイト同士の関係なんていやだ。はやく、それ以上の関係になりたい。私は、彼を想う気持ちをこれ以上は誤魔化すことができないと諦め、彼のことを好きになるということを覚悟した。
「大久保くん!ちょっといいかな?」
その日、私は一世一代の決心をし、人生初の告白に挑むことにした。もう、一人で彼を想い続けることに疲れた。そして、来る日も来る日も彼のあの人懐っこい笑顔と年下とは思えない優しさで包み込んでくれる様に沼っていく自分が怖かったのである。はやく伝えて楽になりたい。その一心で彼を呼び出した。
「大久保くんって彼女とかいたりする?」
「え・・・?いや、いないですけど」
「あ・・えっと、急にごめんね。あの、こういうの初めてでちょっとわからないから単刀直入にいうね。私、大久保くんのことが好き」
それからは、毎日が夢のようだった。あの大久保くんと一緒にいる。横に大久保くんがいる。それだけで幸せだった。
しかし、そんな微かな幸せは長続きするはずもなく私たちの関係は一瞬にして曇り空になった。
「大久保くんが、私のこと好きなのかわからない」
彼の言葉の少なさに苛立ちと不安を覚えていた私は、親友たちにいつも悩み相談をしていた。
「不器用なだけでさ、絶対好きだって。クールじゃん彼」
彼は、確かにクールだし不器用だ。しかし、だからと言って彼からろくに「好き」や「かわいい」の言葉をもらった記憶がない。もう飽きられたのだろうか。彼を信用できないまま、彼への不満は少しずつ溜まる一方だった。
「このカフェの中で俺は咲田ちゃんが1番かわいいと思うよ」
そんな待ちわびていたかのような言葉に一瞬心が揺らぎかけた。言い放ったのは、大久保くんではなく別の男であるのに。
私に愛情表現をしてくれない大久保くんよりもこの目の前の男の方が、私を大切にしてくれるのではないかと強く思った。
もっと焦ってほしい。私が隣にいることを当たり前に思わないでほしい。そんな大久保くんへの鬱憤が溜まるばかりだった。
「大久保くん。今度最近知り合った男の子とご飯行くことにするね」
どうだ。大久保くん、私だってモテる。私がいつまででもあなたの隣にいると思わないでね。もっと焦って!愛情表現を言葉で伝えてよ。
そんな微かな願いも打ちひしがれ、大久保くんは快く了承した。
もちろん、大久保くん以外とご飯を食べても私の心は何にもならない。
好きな相手が自分を好きかどうか確認するために、好きでもない相手に思わせぶりな態度をとった。
ただ、大久保くんに「好き」と自分が欲しい言葉をあげることができていれば返ってきていたかもしれないのに、私はもらうことばかりを考え、自身の思いに反する行動をした。
好きなら好きと言えばいい。会いたいなら会いたいと言えばいい。それなのに、恋人という名の契りが交わされた瞬間に、自分の心の中にある見えない何かが邪魔をする。
好きな人からの好きという言葉が欲しくて、好きではない人に好きな素振りをみせるという私の馬鹿げた行動は、今となってはただの黒歴史である。
どうか、今、恋愛をしている方は自分に、そして相手に素直でいてくださいね。
大学三回生の春。アルバイト先のカフェへ彼が初めて来店した。いつものように丁寧に挨拶をし、注文を受けた。同い年かな?年上かな?自分と同じ年齢くらいの男性が来店することが少ないこともあってか、彼のことをひたすらに分析していた。いや、分析というより、きっと彼のことが知りたかった。私の心は蹴りあげられるかのように一瞬にして彼に惹きつけられてしまった。
「今日から新しいアルバイトの方が入りました。咲田さん!トレーニングよろしくね!」
今日は新しいアルバイトスタッフが来ると聞かされていた。初めての後輩にワクワクしていた私は、相手がどんな人なのか知りたくて仕方がなかった。
と、その時、初めてアルバイトの子と目があった。
「・・・・・え・?」
心では叫ぶような声で溢れ出たはずの言葉が、実際には声にならなかった。
驚きと歓喜と興奮。そんな忙しない感情が一気に私の中で混ざり合う。
「初めまして。今日からお世話になります。大久保と言います。ここのカフェは以前一度だけ来たことがあって・・・」
そう。新しいアルバイトはあの時のお客さんだったのだ。
時は経ち。私たちはすぐに仲良くなった。年は私よりも一つ下。大学二回生らしい。彼は、明るく人懐っこい性格とスラッとした容姿でお客さんの心はもちろんのこと同じアルバイトの心もかっさらっていった。
もちろん、ほぼ一目惚れしたといっても過言ではないように、私の彼を想う気持ちも日が経つにつれて大きくなっていった。
アルバイト同士の関係なんていやだ。はやく、それ以上の関係になりたい。私は、彼を想う気持ちをこれ以上は誤魔化すことができないと諦め、彼のことを好きになるということを覚悟した。
「大久保くん!ちょっといいかな?」
その日、私は一世一代の決心をし、人生初の告白に挑むことにした。もう、一人で彼を想い続けることに疲れた。そして、来る日も来る日も彼のあの人懐っこい笑顔と年下とは思えない優しさで包み込んでくれる様に沼っていく自分が怖かったのである。はやく伝えて楽になりたい。その一心で彼を呼び出した。
「大久保くんって彼女とかいたりする?」
「え・・・?いや、いないですけど」
「あ・・えっと、急にごめんね。あの、こういうの初めてでちょっとわからないから単刀直入にいうね。私、大久保くんのことが好き」
それからは、毎日が夢のようだった。あの大久保くんと一緒にいる。横に大久保くんがいる。それだけで幸せだった。
しかし、そんな微かな幸せは長続きするはずもなく私たちの関係は一瞬にして曇り空になった。
「大久保くんが、私のこと好きなのかわからない」
彼の言葉の少なさに苛立ちと不安を覚えていた私は、親友たちにいつも悩み相談をしていた。
「不器用なだけでさ、絶対好きだって。クールじゃん彼」
彼は、確かにクールだし不器用だ。しかし、だからと言って彼からろくに「好き」や「かわいい」の言葉をもらった記憶がない。もう飽きられたのだろうか。彼を信用できないまま、彼への不満は少しずつ溜まる一方だった。
「このカフェの中で俺は咲田ちゃんが1番かわいいと思うよ」
そんな待ちわびていたかのような言葉に一瞬心が揺らぎかけた。言い放ったのは、大久保くんではなく別の男であるのに。
私に愛情表現をしてくれない大久保くんよりもこの目の前の男の方が、私を大切にしてくれるのではないかと強く思った。
もっと焦ってほしい。私が隣にいることを当たり前に思わないでほしい。そんな大久保くんへの鬱憤が溜まるばかりだった。
「大久保くん。今度最近知り合った男の子とご飯行くことにするね」
どうだ。大久保くん、私だってモテる。私がいつまででもあなたの隣にいると思わないでね。もっと焦って!愛情表現を言葉で伝えてよ。
そんな微かな願いも打ちひしがれ、大久保くんは快く了承した。
もちろん、大久保くん以外とご飯を食べても私の心は何にもならない。
好きな相手が自分を好きかどうか確認するために、好きでもない相手に思わせぶりな態度をとった。
ただ、大久保くんに「好き」と自分が欲しい言葉をあげることができていれば返ってきていたかもしれないのに、私はもらうことばかりを考え、自身の思いに反する行動をした。
好きなら好きと言えばいい。会いたいなら会いたいと言えばいい。それなのに、恋人という名の契りが交わされた瞬間に、自分の心の中にある見えない何かが邪魔をする。
好きな人からの好きという言葉が欲しくて、好きではない人に好きな素振りをみせるという私の馬鹿げた行動は、今となってはただの黒歴史である。
どうか、今、恋愛をしている方は自分に、そして相手に素直でいてくださいね。