ワイバーンホライズンズ~ゲーム作家の俺がログアウトしくじったら自作の龍を退治する羽目になったんだが

彼女は、そう言って歩き始める。アルバートもすぐに後を追った「バーグマンを見なかったか? 彼はドラゴンと戦うと言っていた」アルバートは先を行く彼女に問いかける「私達が駆けつけた時、既にドラゴンは立ち去ったあとだった。残念だが間に合わなかったのかもしれない」「そんな!」絶望に心が折れそうになる。しかし、ここで諦めるわけにはいかない「・・・私はカルバート・ライル・ドイルと言う。カルバートと呼んでくれ」「カルバートか。私はアルバート・フレイ・ロックウェルだ」
彼女は振り返ると、手を差し伸べてきた。どうも欧米人の行動はよくわからないが、握手は文化の基本だと本で読んだ事がある。彼女の手を握る「カルバート、あなたは何故ここに? まさかとは思うが、この先の魔龍の巣に行くつもりじゃ無いだろうな? 奴らは危険な相手だ。今の君では殺されるのがオチだぞ」
アルバートは首を横に振った「実は、彼と行動を共にしていたんだが・・・彼を探すためだ。カルバートはドラゴンを倒すって出て行ったっきり戻って来ない。きっとドラゴンに襲われたんだ。探し出さなきゃいけないんだ。だから頼む。邪魔しないでくれないか」アルバートは頭を地面にすりつけて頼みこんだ。
「アルバート・・・わかった。一緒に行こう。私達の目的は同じのはずだ。共に戦おうじゃないか」カルバートは優しく語りかける「カルバート。すまない助かるよ。恩に着る」アルバートの頬を一筋の滴が流れた「カルバート。君は良い人だな」
カルバートは照れくさそうに鼻の下を擦った
「へへん。見直したか?」その仕草が可笑しくなって二人とも吹き出す「さあ、出発しようぜ! こうしている時間さえ勿体ない」
そして二人は歩き始めた カルバートが先行し、アルバートが後ろからついていくというフォーメーションになった。
「奴らに見つかってる気配はないようだが、念のため慎重にいこう」アルバートは黙ってカルバートについて歩く「カルバートはいつも独りなのか? パーティを組んだ方が安全だし効率もいいと思うんだが」アルバートの問いに、彼女は少し考えるとこう答えた「今はね。以前はもっと大勢の冒険者とパーティーを組んでいた」
「どうして今は独りなんだ? 他のメンバーは何処に居るんだ」
「死んだよ」カルバートの足取りが重く沈んだ。
「そうか、それはすまないことを聞いた」それ以上深く追求するのは止めにした「まあ、昔の事だ。それにソロでやるにも理由がある」
「理由って?」
「私のスタイルに合わなかっただけだ。他人に強制するつもりはない」
「ふうん。俺には理解できないが」
そして目的地に到着した 巨大な洞窟の入り口が月明かりに浮かび上がる。入り口は狭いが中は横に広く奥は闇に包まれている。
アルバートは腰を落とし剣に手をかけた「待ってくれ」カルバートの制止が入る。
彼女が左手を突き出してストップのジェスチャーを示した「どうやらドラゴン達は引き上げたみたいだ。静まり返っている。今なら中に忍び込めるはずだ」
カルバートは入口の手前にある大きな岩の上を飛び跳ねるようにして登っていく。
続いてアルバートがカルバートの真似をして岩を登り始めた。「おいおい。こんなところでつまずくのかよ」情けない声が響く「大丈夫。この程度の段差は平気だ」と、自分に言い聞かせる。「カルバート。ちょっといいか」
下から呼びかけられた「ん?なにかな」返事をしながら飛び降りる「こっちに来て欲しいんだ」カルバートは、何やら怪しげな雰囲気を察して、警戒しながらゆっくりと近づいていく「・・・これを見て欲しい」
カルバートの目の色が一変する!「そっ! そんな!・・・これは・・・これは間違いない! アルバート・フレイ・ロックウェルの魂に違いない!」
カルバートが魂を手に取ると輝きが増していく「やはりそうか。私達の宿敵である魔王の手に渡ったんだな」「魔王? それがあいつの名前か?」「ああ、そうだ。奴の事をすっかり失念していた。私が迂闊だったよ」
アルバートが怒りを露わにして叫ぶ「許せん。奴だけは! 奴だけは生かしておけん!」
その時、背後の暗闇から物音が響いた!「しぃ!静かに」息を潜めてやり過ごす「ふう。なんとか誤魔化せたようだな」
「奴も気付いてないだろうな」カルバートとアルバートは互いに見つめ合うと思わず噴き出した「とにかく奴から逃げ延びよう。奴は必ずこの世界で生き続けるだろう。奴の存在はこの世界の秩序を乱し、混沌を呼び起こす。私はそれを許さない。奴を殺すことが私の使命なのだから」そしてカルバートは、手に取った魂の残骸を握り締めて天を見上げた「絶対に殺す!」
カルバートが呟く「魔王はどこに居るんだ? 手探りでは見つけられない」アルバートは腕組みするとしばらく考え込んだ。