ヴィノグラート・スコットランド公の説明を要約すればバーグマン国王はルルティエ騒動で荒廃したイングランドを率先して立て直した功績を称えられて三顧の礼で王位に就いた。ブリテン連合王国は瓦解しておりウェールズが独立を宣言するや、コンピューター技師のヴィノグラートを大急ぎで指導者に擁立する動きがスコットランドで出た。荒廃しきった国で議会制選挙などやる余裕もなく取り合えず電脳のバケモノであるルルティエに対抗できる知恵者がリーダーに相応しいということになった。
「バーグマンも出世したものだな」
アルバートは遠くを見る目つきで続けた。
「それで公爵閣下。国王陛下と何を…」
「ああ、公爵でいい。あなたとは一緒に戦う仲間だ。勇者様」、とヴィノグラートがへりくだる。
「アルバートでいいよ」
「では、せめて敬称で呼ばせてくれ。勇者殿」
「好きにしろ。で、バーグマンと何を話せばいいんだ?」
「うむ、単刀直入に言うと、勇者殿と国王お二人に関わる話だ」
というなり、彼は人払いをさせた。誰もいなくなると声を潜めて露骨に言う。「ルルティエ討伐の暁には残骸をこちらに引き渡していただきたい」
それはアルバートにとってとうてい呑めない条件だった。ルルティエはゲームのキャラクターだ。版権はアルバートとバーグマンにある。いくら魔王を倒した英雄であっても、他人に所有権がある物を、おいそれと手放すわけにいかない。ましてや、ゲームのキャラだ。
だが、相手はスコットランド公国。つまり、封建国家。中世的世界観のRPGにおいて絶対君主主義をとる国においては王の命令は絶対的に優先する。しかし、この国の王様がそんな命令を出すとも思えない。なにか事情がありそうだ。
さあ、どんな言い訳をするのか。と興味深く聞いてみると。
「ううっ…….うぅ……..ふぐ」嗚咽するばかりで言葉にならない。
「あの〜。もしもし。ちょっと。」
どうも要領を得ない。しばらく考えてようやくわかった「あっ、もしかして。俺がいなくなったと思って心配してくれたんですか?」。どうもそうみたいだ「はは、馬鹿だなぁ」涙がこみ上げてくる。「大丈夫だよ。ほら元気でしょ」両手をバタつかせて見せると安心したようだ。それから、二人でこれからのことを話し合うことにした。まず、アルバートはルルティエ討伐に最後まで付き添うつもりはないと説明した。そもそもアルバートは戦闘向きではない。むしろ苦手分野だ。そして、自分はもう若くない。老後を考えねばならない歳だ。いつまでも冒険者稼業を続けるつもりもない。
「ということでだ。今回の作戦はお前に任せたいと思う」
「待ってくれ。アルバートはどうするつもりなんだ」
「俺は、どこか田舎に家を建てようと思っている。幸い、こっちに持って来れなかった物もあるしな」
と言って鞄の中を見せる「これじゃ、ないよ。僕が探してるのは」
「ああ、知ってるよ。でも、まあ、あれだ。これは俺からのプレゼントだ。あとは任せたぜ」
「アルバート!!」
彼は荷物を抱えて、去っていった「じゃあな、頑張れよ。相棒」
そして、決戦の朝がやって来た。
ルルイエが近づくにつれ空気が変わった。重苦しく生臭い海臭さと腐乱した肉のような腐敗した臭い。それに潮の香りも混ざっている。まるで地獄の釜が開いたような有様だ。「いよいよ、ご対面かな」「だろうな。行くぞ、ヴィノグラート」
「了解だ」
一行はドラゴンの巣を急襲し、ルルティエ・ド・ゲヌビの首魁を叩こうとしていた。
巣に踏み込むと同時に視界は闇に包まれた。何も見えない完全な暗黒。ただ息遣いと金属音、足音の響く洞窟の深淵だ。松明に灯した光さえ吸い込まれる漆黒の空間は異次元の入口か何かのように見える「どうする。アルバート」「決まってるだろ」
「進むしかないよな」と剣を握り直す「ああ、そのとおりだ」
闇の中に一筋の閃光が走る。
続いて鼓膜を引き裂く高周波が響いた「うわあ!」耳をつんざく音がアルバートの平衡感覚を奪い去る「落ち着け。敵だ」
「わかってるよ」と言いながら目と耳に意識を向ける。しかし、「クソッ、駄目だ」目が霞み音が聞こえない「毒霧を使われたのか」と歯噛みする「えーっと、何がいるんだ?」
「おそらくドラゴンだ」
そして再び閃光が走り、アルバートの頭上で破裂音が轟いた「危ねえなあ」思わず舌打ちする「下がってくれ、私が倒す」というが早いか、次の攻撃が来る「またかよ」アルバートは飛びずさってかわすと、反撃に転じる アルバートの斬撃を受けた相手が苦痛の雄叫びを上げる。ドラゴン特有の金切り声で耳がおかしくなる。ドラゴンは身をひるがえし逃げようとしたが「逃がしゃしない」アルバートの追撃を受けて、致命傷を受ける。そして力尽き倒れこんだところを切り刻まれた「これで全部か」
「ふう、なんとか勝てたか」