青年は、陽気なアナウンスを口元から奏で、けらけらと笑った。

 少年は、立ち上がりざまに彼を睨みつけた。

「そんなでたらめな名前の駅なんて、あるもんか」

 ――けれど、実際にあったのだけれど。

 青年は、実に愉快そうに笑った。少年も、希望が宿った目で可愛げもなく強気に笑い飛ばしていた。
 
(僕が大人になったのなら。ここから降りた彼女を抱き締められたのなら、その時にはすべて話そう。不思議な列車のこと、そして、君と再会したことを)

 だからまた、君に会いに行く。

 未来の時間で二人が一緒だったということは、どこかで、自分は必ず彼女に会えるはずだ。

(――その時には、絶対に間違えたりしない)

 今よりもほんの少し若い彼女を、自分は決して他人の空似だと思うことなんてないはずだ。名前も聞けなかった彼女のことを、きっと、一瞬ですぐに分かるはず。

 少年、桜宮晃光はそう思った。

 なぜか、そんな自信が不思議と身体の奥底から湧き上がってきた。

「僕が望むのなら、頑張れば――亡くなる前の彼と、名前を知らない彼女に、きっと会える」


 不思議な夜行列車が空へと旅立っていくのを、別荘の二階の窓から見送りながら、彼は希望に満ちた声でそう言った。


 出会った時、晃光は二十八歳、香澄は二十歳。

 ――それはまだ香澄が生まれていない時代、意外にも大人びていただけでそうは見えなかった、晃光が七歳の時の話だった。



                 了