理由もわからず、男の胸板に身を預けて震える手で男のコートを握りしめる。男のことを知らないのに、なぜか懐かしさが込み上げ、涙が溢れて止まらなかった。

「ああ、看取る瞬間に立ち会えなかった未来の君が泣いているんだね。責任感が強い子だと思ったよ。君は私がどうなってしまうのか、未来が分かっていたから、あんなに悲しい顔をしたのだよね」

 彼は、男の言葉になんと答えていいのか分からなかった。

「お、おじさんは、死んじゃうの」
「うーん、私の世界の時間軸で言えば天寿を全うした。これから、妻が待つ場所まで、自分の親父と共に行くんだ――晃光くん、生きている間に、義父としてぞんぶんに君を愛してあげられなくて、ごめんね。君にとって家族は冷たかった、だからせめて私が愛してあげたかった。僕は二人を、本当の子どもとしてあの世に行ってもずっと愛しているよ」

 少年は、男の胸の中で泣いた。こんな風に、父や母から愛されたかったと泣き叫んだ。