理性で考えるよりも早く、少年は今しがた掛けられた言葉の真意を男に尋ねた。

 青年は、少年のことなどそっちのけで呆れたように男の背中を叩いた。

「全く、手間掛けさせるんじゃないよ」
「すみません」

 男は苦笑して帽子を手に取ると、「ところで」と言って機関士をまじまじと見た。

「父さんは、どうして若作りで来たんですか? わかりませんでしたよ」
「ばっかやろっ、若かった頃の俺がハンサムだったことを、おめえに証明してやろうとしてだな――」
「母さんが、一番好きだった頃の姿をしているんでしょう? 僕のためではなくて、母さんのためなんだ」

 青年は、図星が気に食わんとでもいうように唇をへの字に押し上げた。

 中年の男が若い彼に対して「お父さん」と呼ぶ光景は妙だったが、少年は、この青年が、自分の息子を迎えるために夜行列車に乗っていたのだと悟った。

 ――時間も、場所も、ばらばらなところを走る不思議な列車。

(ああ、なら、すべて〝起こり得ること〟なんだ)