女性が列車から一歩を踏み出した瞬間、少年は「あっ」と声を上げた。

 女性の足元からぼんやりと白い風景が広がり、これまで見たこともない近代的な駅の一部が夢のワンシーンのように浮かび上がったのだ。

 滑らかなコンクリートは、雪と同様に白く発光し、幻想的な景色を作り出していた。

「……なんで、俺にもこの風景が見えるの?」

 ようやく言葉を吐きだして、胡散臭い機関士に答えを求めた。

 すると新たな乗客を入れて別の車両に案内したその青年は、不敵な笑みを刻んだ唇に人差し指を押し当てるだけで、何も語らなかった。

 少年は急いで彼女が下りた方の車両面へと移動して、座席の上に膝をつくと、窓枠に両手を置いて食い入るように車窓からの風景を見た。

 青年と男も見つめる中、列車は重々しい腰を上げて流れ出す。

(待って、まだもう少しだけ)

 唇を開きかけたとき、少年は、ぼんやりと白く浮かび上がった風景にはっと目を凝らした。