男の子でも生まれれば、と両親がどこかで落胆しているような気がして怖かった。少しでも早く両親の助けになりたくて、ようやく見つけたのは勉強することだった。たくさんの数字を弾く母のように、いつかは経営に関わるような手伝いが出来ることを期待した。

 そうしているうちに、夢が出来た。

 幼い頃にはたくさんあった、こじんまりとした飲食店。

 自分もそういう店を持ってみたいと思った。二階建てで、両親と一緒にゆっくりと暮らす生活――。

 それは一つの希望になった。これまでは忙しくて出来なかった三人での旅行も、自分の頑張りしだいでは出来るのではないかと胸が高鳴った。

 香澄は父が本当は読書が好きなことを知っていたし、「いずれグルメツアーなんてしたいわね」と母がいっていたことも覚えていた。

 香澄は、臆病な自分を奮い立たせた。大人になる将来の自分のために、勉強することに努力を注ぎこんだ。電車で国立の高校まで通った。成績は常に上位だった。