「ごめんなさい」

 謝った声は、震えていた。

 晃光の感じている悲しみや辛さが、香澄の胸にも同じように込み上げてきた。

 昨日までは知らなかったはずなのに、もうずいぶんと長いこと経験しているような自然さで、香澄は自分のある心がどんなものか気付いた。

「私も、あなたのことが好きだったのよ、晃光さん」

 いつからだったのかも、わからない。

 けれど、何かもかもを削ぎ落して一人の人間として向き会ったとき、香澄は晃光のことがひどく愛おしく感じた。

 気持ちを偽っていた自分に、そして迷惑をかけた晃光に香澄は「ごめんなさい」と謝り続けた。

「僕の家族が……怖い思いをさせて、ごめんね」

 そう答える晃光の声も震えていた。彼は、更に強く香澄を抱きしめる。

「もう一度、プロポーズをさせて欲しい。俺は、香澄のことを愛しているよ――結婚しよう」

 そう続けられた言葉に、香澄は、なぜかふと夜行列車で出会った少年のことを思い出した。