「僕、お姉さんのこと忘れないよ」
「うん。私も、きっと忘れないわ」
「もう一度出会えたら、またお喋りしてくれる?」

 香澄は数秒ほど間をあけ、「ええ」と微笑んだ。

 自分に子どもがいたのなら、こんな感じなのだろうという暖かさを胸に抱きながら。

 開いた扉の向こうは、死んだように風が静まり返っていた。どんよりとした深い夜の向こうから、雪が音もなくゆっくりと舞い落ちてくる。

 香澄は駅に足を踏み出した。

 いつもなら多くの人で賑わう駅に、人の姿は見当たらなかった。購買の灯りは消え、駅に沿って三つの街灯が白いコンクリートを照らし出している。

 凍てつく空気を吸い込むと、匂いもないのに自分が生まれ育った街を強く感じた。

 ふと、どこからか一組の足音が聞こえてくる。

 香澄は、背後で夜行列車が動き出すのを感じながら、ゆっくりとそちらへ首を傾けた。

 ぼんやりと浮かび上がった構内に、白い息を荒々しく吐き出して駆けて来る晃光の姿を見つけた。

(え? どうして――)