ふと顔を上げると、真っ暗な車窓にぼんやりと白く、横殴りの雪が浮かんで見えた。


 ――お前は、もう大丈夫だ。


 父の声が聞こえたような気がして、香澄は、はっと車内を見渡した。

「どうしたの?」

 少年が不安げな表情で言う。

 香澄は、自分の頬にざらついた手の温もりを感じた。途端に、後ろからふんわりと抱きしめられるような暖かさに包まれる。

 懐かしい匂いが鼻をつき、涙がこぼれ落ちそうになった。
 若い頃の父と母が、この夜行列車に乗っていたさまが、鮮明に脳裏に浮かび上がった。


 ――さあ、行きなさい、香澄。お前の帰るべき場所へ、夜行列車は停まってくれるから。


 お父さんはどうするの、と香澄は心の中で訴えた。

 答えはもうわかっていたのに、そう訊かずにはいられなかった。


 ――父さんはね、母さんのところへ行くよ。お前が心配で離れられなかったけど、お前はもう大丈夫だ。父さんと母さんはずっと香澄を愛しているし、遠くに離れてしまっても、いつまでもお前のことを見守っているから。