「まあな。それぞれの家庭教師が、毎日入れ替わり立ち替わりで家にやってくるんだ。学校の教科は国立大学生がアルバイトでやっていて、いちいちこっちの顔色窺って来る感じが苛々する。子ども相手でも『さようでございますか』なんだぜ? 使い慣れてない癖に。しかも、しょっちゅう言葉を噛む」

 少年は大袈裟に「やれやれ」と肩をすくめてみせた。

 香澄は、その国立大学生のモノマネを始めた少年に思わず笑った。

「よく見ているのね」
「俺の観察力は、兄や弟の中でピカイチなんだぜ」

 彼はそう言って、不器用ながらに笑ってみせた。

 夜行列車は、暖かい地域を通り過ぎたのか、しばらくするとまた空気が冷たくなり始めた。

 車窓には闇が広がっているばかりだが、列車は鈍い轟音をたててしだいに速度を落としていった。

 すると、唐突に機関士の青年が現れ、「懐かしい通天閣よ!」と演説めいた出だしをして、二人の前にポーズを決めて立った。