「みんな嫌な奴ばかりなんだ。塾もソロバンも、ピアノのレッスンも、華道や着付けの先生だって腹の中は真っ黒さ。こんなことを学んでいたって、『お前らみたいな大人にしかならないのなら嫌だ』って、俺たち兄弟はいつも思ってるんだよ」

 ずいぶんと無理を強いられているのだろう。

 そう、兄弟がいるのね、なんて香澄は質問することも躊躇われ、ただ静かに耳を傾けることしか出来なかった。

「あいつらは、俺たちのために教えているんじゃないんだ。みんな、父さんや母さんに褒められたいだけなんだ。まるで厳しいだけがいいみたいな教育をしてさ、父さんたちに『どうですか』って嬉しそうに報告するんだ。出来ない時はひどく罵るし、馬術の先生も茶道の先生も、ほんとクソくらえだ」

 少年は、右足を軽く蹴り上げた。

「習い事がとても多いのねえ」

 香澄がようやく吐息をもらすと、少年は場違いなことを聞かれたように眉根を寄せた。