ずいぶん話しこんでしまったものだ。香澄は我に返って、ふと申し訳ない気持ちに襲われた。

 少年をちらりと見ると、切ないような眩しいような、神妙な表情でこちらを見ていた。まるで大人の眼差しのように一瞬見えてしまって、香澄は少し戸惑った。

「どうしたの?」
「お姉さんの傍にいる人は、きっと幸せだね」

 少年は澄んだ声で囁いた。

 香澄は「そうじゃないのよ」と首を横に振る。

「私の方が、幸福を分けてもらっていたから」

 彼はきょとんとして「そうかな」と小首を傾げた。ずいぶんとあどけない仕草は、香澄に対して打ち解けてきているようだった。初対面の時と比べ、その表情に刺はない。

 香澄は嬉しい気持ちになり、弟がいたらこんな具合だったのだろうか、と考えたりした。ぎこちないながらにせいいっぱい微笑んでみると、少年は何故だか泣きそうな顔をして唇の端を歪めた。

「お姉さんみたいな大人が、近くにいてくれたらよかったのに」
「私……?」