「婆様の葬式があってさ、……爺様が、それを大事そうに抱えてた」
「……そう」
「爺様と婆様のところが俺の居場所だったのに、爺様は、死んだ婆様を連れてどこかに行くっていうんだ。二階のあの部屋は、爺様と俺と、婆様の部屋だ……別荘にするなんて、ひどすぎるよ。だけどガキの俺にはどうしようもなくて、最後だと思って二階の部屋で寝ていたら、この夜行列車が来たんだ」
少年は膝を抱え、遠くを見るような瞳をぼんやりと宙に向けた。凍てつく空間に消えていく吐息の向こうに、記憶の残像が形成されるのを眺めている。
長いこと、二人は喋らなかった。
白い吐息はやがて見えなくなり、いつの間にか窓硝子の霜も消えていた。
まだまだ寒いけれど、指先が凍るほどの冷気はもう感じなかった。
「きっと、雪国を過ぎたんだろうな」
少年がぽつりと呟いた。
「爺様のところも、雪が降っていたよ」
「戻らないの?」
「帰りたくない。このままじゃいけないんだろうけど……俺はいつまでも降りられないなんて思うのは、すごく矛盾しているんだろうな。きっとどこかで降りなくちゃいけなくて、心のどこかでは降りたいと願っているみたいだ」
「……そう」
「爺様と婆様のところが俺の居場所だったのに、爺様は、死んだ婆様を連れてどこかに行くっていうんだ。二階のあの部屋は、爺様と俺と、婆様の部屋だ……別荘にするなんて、ひどすぎるよ。だけどガキの俺にはどうしようもなくて、最後だと思って二階の部屋で寝ていたら、この夜行列車が来たんだ」
少年は膝を抱え、遠くを見るような瞳をぼんやりと宙に向けた。凍てつく空間に消えていく吐息の向こうに、記憶の残像が形成されるのを眺めている。
長いこと、二人は喋らなかった。
白い吐息はやがて見えなくなり、いつの間にか窓硝子の霜も消えていた。
まだまだ寒いけれど、指先が凍るほどの冷気はもう感じなかった。
「きっと、雪国を過ぎたんだろうな」
少年がぽつりと呟いた。
「爺様のところも、雪が降っていたよ」
「戻らないの?」
「帰りたくない。このままじゃいけないんだろうけど……俺はいつまでも降りられないなんて思うのは、すごく矛盾しているんだろうな。きっとどこかで降りなくちゃいけなくて、心のどこかでは降りたいと願っているみたいだ」