「そんな不思議なことが?」
「ああ、本当さ。君にもあの子にも、車窓は真っ暗だと思うけど、俺にはちゃんと見えているよ。今夜行列車は、雪山を左右に拝んで凍った湖の上を走ってる」
「湖の上を走れるわけがないだろ!」
靴を取りに行った少年が、すかさずに怒鳴った。
香澄は、薄い氷に覆われただけの湖の上を走る列車を思い浮かべた。青年は香澄の答えを心待ちにしているかのように、にこにこと彼女を見つめていた。
「あの、雪山に挟まれた湖なんて、あるんですか?」
「在るともいえるし、無いともいえる。あるときは湖であり、あるときはダムになっているから」
「はあ……」
よく、わからない。
少年がきちんと椅子に座ると、青年は八重歯を見せて二人に笑いかけた。踵を返しつつ、背中越しに振り返って言う。
「降りるべき風景に出会ったら、きっとすぐにわかる。乗車時間に制限なんてないからね。まあ気ままに楽しむといいよ。俺だって臨時の機関士だからね」
「ああ、本当さ。君にもあの子にも、車窓は真っ暗だと思うけど、俺にはちゃんと見えているよ。今夜行列車は、雪山を左右に拝んで凍った湖の上を走ってる」
「湖の上を走れるわけがないだろ!」
靴を取りに行った少年が、すかさずに怒鳴った。
香澄は、薄い氷に覆われただけの湖の上を走る列車を思い浮かべた。青年は香澄の答えを心待ちにしているかのように、にこにこと彼女を見つめていた。
「あの、雪山に挟まれた湖なんて、あるんですか?」
「在るともいえるし、無いともいえる。あるときは湖であり、あるときはダムになっているから」
「はあ……」
よく、わからない。
少年がきちんと椅子に座ると、青年は八重歯を見せて二人に笑いかけた。踵を返しつつ、背中越しに振り返って言う。
「降りるべき風景に出会ったら、きっとすぐにわかる。乗車時間に制限なんてないからね。まあ気ままに楽しむといいよ。俺だって臨時の機関士だからね」