香澄は木箱の父を引き寄せ、腹部の当たりで暖を取った。

「何も見えないわね」
「見えるはずなんかないだろ」

 少年は強い口調で言ったが、続きを話そうという空気を出して、ハッと直くしてみたいに押し黙った。

 そこへ、先程機関室から顔を出していた青年がやってきた。「やあやあ」とやけに慣れ慣れしい声を上げる。

「迷子の夜行列車へようこそ。――あれ、君はまだ降りてなかったのかい」

 青年が困ったように小首を傾げると、少年は大きく鼻を鳴らしてそっぽを向いた。帽子の下から覗くその唇はふっくらとしていて、香澄は彼がずいぶんと幼い子供であることを再認識した。

 すると彼に構わず、青年は香澄の前に立った。

「夜を走り続ける夜行列車へようこそ、お嬢ちゃん」
「あの、寒くないんですか……?」
「いんや、寒くないよ。先を続けてもいいかな?」

 香澄が肯くと、青年は半袖のシャツ姿のまま話し出した。不思議と、青年の口からは白い息は出て来なかった。