「寒くない?」

 香澄は自然とそう尋ねていた。列車の振動以外に人の声が恋しくなったからかもしれない。白い吐息が、寂しげに宙に霞み広がった。

 少年はちらりと顎を上げた。

「雪国に入ったんだ。当然だろう」
「雪?」
「この列車が寒い所に行くとさ、窓も凍っちまうんだ」

 少年はぶっきらぼうに「見てみろよ」と顎先で窓を示した。

 いつの間にか、窓ガラスの外側に氷の膜が出来ていた。木材の囲いにも霜が割れている。

 香澄は、愛想はないが親切に説明してくれているような少年を、まじまじと観察した。

 見覚えはないが、彼が来ている長袖と半ズボンの紺緑は、どこかの小学校の制服であったような気がした。

 少年の肌はなめられで、白くて、帽子から覗く癖のない髪は育ちの良さを匂わせるように列車の揺れに合わせ、時折さらさらと揺れていた。

 しばらく、寒さと沈黙が車両に満ちた。

 少年が指先が林檎のような色に染まった小さな手で、帽子をくいと引き下げた。