列車の中は、木材で出来ていた。古い昭和時代のワンシーンに出てくるような、どこか懐かしい感じのする造りだった。

 小さな窓が直線に並び、それに背をくっつけるようにして木材の椅子が続いている。

 第一車両は、バスほどのスペースで、香澄はその中央に腰を降ろした。

「あら?」

 今になって気付いた。向かいには、六歳ほどの少年が床につかない足を広げて座っていた。

 画家がかぶるような形をした紺緑の上質な帽子を深くかぶり、唇を一文字に引き結んで腕を組んでいる。

 すると夜行列車が、がたんがたんと振動して発進し始めた。
 それは昔、どこかで聞いたような懐かしい音を軽快に刻んで、走り出す。

 窓の向こうには何も見えなかった。窓硝子には、車内の様子が反射して映っているばかりだ。

 香澄は、父の遺骨を抱えたままぼんやりと車窓を眺めていた。窓硝子に反射する自分の横顔は、魂を抜かれた人形のように虚ろだった。