「ふぅ、まだ早い時間のはずなのに真っ暗だわ……」

 真冬並みの冷気が夜の闇に満ちていた。

 歩き慣れた住宅街には、冷気のヴェールがかかった灯りがぼんやりと映るばかりで、真っ暗といってよかった。

「はぁ」

 かじかむ寒さのあまり、父が入ったボストンバッグを胸に抱え寄せ、震える吐息を吐き出す。すると途端に真っ白い煙がたくさん出てくるのだ。

 疲れてはいたが、その驚きは自然と込み上がった。

「こんなに寒いなんて」

 やはり、口にする際の吐息もとても白い。

 父と通っていた公園までもうすぐ、という距離で、香澄は静まり返った空気を震わす暖かで奇妙な蒸気音を聞いた。

(何かしら……?)

 まさか、本物の上蒸気音だろうか。

 疑問を覚えた直後、急かされるようにハッと走り出していた。

 音が聞こえる方へ向かってスカートをひるがえし、駆ける。

 すると公園の入り口すぐに、見慣れない黒い物体が立ち塞がっていることに気がついた。それは公園の街灯に黒々とした光沢を照り返し、いかついフォルムをくっきりと浮かび上がらせている。