出会いが違っていれば、晃光とはいい友だちになれたかもしれないな、とふと思ったりした。

 香澄はしばらく指輪を見つめたあと、やっと顔を上げると泣き顔に微笑みを作った。

 晃光の母親はジュエリーボックスを奪いように取り上げると、どこか安堵したように胸を撫で下ろして、付添人に合図した。

 黒スーツの一人が封筒を取り出したが、香澄はそれについては強く拒んだ。

「お金はいりません、線香だけで――」

 一瞬、その封筒の熱さに怒りで頭がカッと熱くなった。

 バカにしないで欲しい。お金で、彼との縁を売ったわけではない。

 何かあれば、この家を売ればいい。アパートに暮らして、普通のOLとしてやっていげばいいのだから。

「ふん、わたくしは先に車に戻ります」

 彼の母がそう言って踵を返した。

 桜宮家の代表として一人が残されて線香を上げている間にも、両親や付き添いの面々は早々に引き上げていった。

 最後まで残り、長い間手を合わせていたのは三十後半大柄な男だった。