父も母も、もういなくなってしまった。

 手元に残ったのは、ちっぽけな葬儀だけでせいいっぱいの金額だった。

 灰になった父の遺骨を納める場所も見つからず、父が手配した母の遺骨はどこへ行ってしまったのだろうと今更ながらに考えた。仏壇のどこにも、母の灰はみつからなかった。

       ◇◇◇

 葬儀から十日ほど経った。

 香澄が一人仏壇の前でじっと座りこんでいると、見知らぬ人々が押し掛けてきた。

「失礼だとは思うが、返事がなかったので勝手に上がらせてもらったよ」

 先頭には見知った顔があった。桜宮晃光の両親だった。

 そう告げたのは彼の父だったが、香澄は疲れ果てていて非難の声すら出てこなかった。

(それでも――)

 仏壇の前だ。

 傍に、父がいてくれているような気持ちになって、不意にささやかながら不思議と力が込み上げてきた。

(今、ここで言えば、すべて終わる)

 父にも話した。そして香澄は、今日ここでそれを彼らに直接示すチャンスだ。