心拍が止まってからも、父の寝顔は穏やかな微笑みに満ちていた。

 夢の中で故郷へと帰り、銀白の世界に訪れた春の景色の中で、母と会えたのかもしれない。

「良かったね。うん……良かった……ふ、ぅ……っ」

 香澄は、もう目覚めない父の横顔に話しかけた。もう答えは返って来ないとわかっていても、強い寂しさが込み上げて涙が溢れても、話しかけることをやめられなかった。

 父の葬式は、長年住み続けた家で行われた。

 大勢の人が別れを惜しんで泣いた。

 独りぼっちになった香澄は、三日三晩泣き続けて、涙も出ないほど憔悴した。

 南原さんや父の知り合いが葬式の進行を手伝い、そして遅れてやってきた晃光が、初めて香澄を強く抱きしめた。

 大きな背中だと思った。自分の身体が、誰かにすっぽりと包まれている安心感に満ち、香澄はたまらなくまた涙をこぼした。言葉は何も浮かばず、涙ばかりが溢れた。喪失感が胸の底をせり上げ、晃光に強く抱きしめられるほど切なくなった。

(――この人も、いなくなってしまうのよ)