そして年が明けて香澄が二十四歳の誕生日を迎えた日、香澄と父はささやかな祝福をあげた。

 手作りの小さなケーキに蝋燭を立て、香澄は出来るだけ長く父と過ごせますように、と願いを込めて一気に蝋燭を吹き消した。

 そのときふと、香澄はまだ母が生きていた時や、藤野の会社があったときの暖かさを思い出して涙腺が緩んだ。慌てて電気をつけ直すと、父の瞳も潤んでいた。

「香澄、二十四歳の誕生日、おめでとう」

 刻みつけるように、父は言葉を大事そうに区切って述べた。

 香澄も泣き顔に笑みを刻んだ。

「お父さん、二十四年目のこの日も、そばにいてくれてありがとう」

 晃光がやってきたのは、二人がケーキを食べ始めた頃だった。

 香澄が玄関を開けると、胸いっぱいに薔薇の花束を抱えた晃光が立っていた。

「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」

 短い言葉を交わして、香澄は花束を受け取った。甘い匂いが鼻をついた。

「これを、受け取って欲しい」

 彼は手短に言うと、小さな箱を香澄に押し付けた。