「あらまあ」

 彼の母がそう言った。

 返事をもらえなかった晃光は、テーブルから半ば身を乗り出して幼い香澄の顔色をずいっと窺った。

「どうだろうか」

 晃光は、他の二十歳に比べても、華奢で幼い香澄を脳裏に刻み込むように見ていた。彼女の頬に浮かぶ丸みや、少女のような歯切れの悪い声色が、いずれは大人の女性へと変わっていく過程を想像し、じっくりと観察しているみたい――。

(まさか、そんなことは)

 まるで、諦めきれない、と言わんばかりの彼の態度に戸惑いつつ。

 香澄は、こくり、とやや遠慮がちに頷いた。どうして私なんか、という言葉は勇気もなく胸にしまわれた。

 晃光の微笑した唇から、安堵したような、そしてどこか満ち足りたような吐息がもれた。