「きっと私は、桜宮家とは関係を持たないわ」

 言葉を口に出すと、なぜだが胸の底がすうっと寒くなった。

 父はじっくり黙ったのち、

「そうか」

 とだけ言った。

         ◇◇◇

 父は毎月一回の通院を続け、一年を家で過ごした。

 目に見えて体力は落ち始め、手足の痛みに夜中何度も起きた。

 手先が冷たくなってゆく感覚と、目に見えない神経が病魔に侵されて痺れを伴うのだ。しかし、父は香澄にその苦しさを訴えることはしなかった。

「大丈夫だよ」

 そう、どうにか言葉を吐き出し、感情を押し殺して微笑んだ。

「一緒に、お前の二十四歳の誕生日を祝わせておくれ」

 たびたび、父はそう口にした。まるで自分に言い聞かせるようだった。

 きっと、その先はもうないのだろう。

 香澄は静かにそれを受け止めた。

 もう、癌は後戻りできないほど進行していた。日に何度も眠りに引き込まれる父の傍で、香澄はただじっと座って過ごした。涙はとうに枯れ果て、重々しい疲労だけが身体を重圧した。