父と娘の生活は穏やかに過ぎる。バランスのいい食事メニューには制限もついていたが、料理を二人で開発する楽しみがあった。

 天気がいい日には、父の体力に合わせて暮らし慣れた街を歩いた。

 父はよく話したし、香澄は彼の話をよく聞いた。

 二人とも、これが執行猶予を受けた最後の自由時間だと知っていたから。

「ずっと北にある街からここへやって来たんだ。夜の急行列車に乗ってね、母さんと南を目指した。当てもなく列車に揺られているとき、ふと視界が開けてね。――勘、みたいなものかな。父さんも母さんも『ここだ』と思って、列車を降りたんだよ」

 はじめて聞く話だった。

 噴水とグランドばかりしかない公園のベンチに腰かけ、香澄は父の話しに耳を傾けていた。

「雪が降る町だった、あたり一面真っ白になって、町が見えなくなるんだ」
「そんなに雪一色になる場所があるの?」