そのあと数日、家で父とゆっくりと過ごした。
 桜宮家から電話が入ったのは、週末近くのことだった。

「お元気にされているかしら」

 淡々とした物言いの女性は、晃光の母親だった。

 彼女は「別れろ」とは言わなかったが、堅苦しいことを延々と並べ、たびたび「相応しくないのよ」という言葉が出た。

「そうですね」

 香澄はそう相槌を打った。彼の母は彼女の返答なんて求めていなくて、喋るだけで満足なのだ。

 別れて、欲しいのだろう。

 邪魔だから離れて欲しいのだ。

 その決得のために、香澄がそう動きたくなるように数日おきに彼の母は電話を掛けてきた。香澄はその電話を受け取っては「はい」「そうですね」と聞いてあげた。

      ◇◇◇

 結婚やらお見合いやらと言われても、香澄には遠い世界の話に思えた。ましてや男女の感情なんて、考える暇はなかったし――。

「恋をしてみたらいいんじゃないかな」

 父の様子を訪ねてきた南原さんに相談すると、窮屈に考えるものではない、とアドバイスを受けた。