「いいかい、香澄。お父さんはね、香澄が立派な暮らしの紳士と結婚するのなら、とても安心するだろう。けれど、辛いのならやめなさい。愛がある結婚には、決して辛さや苦しさはないから」
父は真面目な顔で言った。
「お父さんたちは、幸せな結婚だったのね」
香澄が納得した顔で微笑むと、彼はひどく優しげに笑い返してきた。
「そうだとも。始めの暮らしは貧しいものだったが、お父さんとお母さんは、それでも幸せだったんだよ。ひっそりと挙げた結婚式だって、世界がきらきらと輝いて見えた。世界で一番の幸福者だ。ずうっと一緒にいたかったから、結婚したんだよ」
けれど父は、そこでふっと表情を曇らせた。
「だが、桜宮家は……」
言い掛けて、彼は言葉を濁した。
香澄には、父が言いたいことはよくわかっていた。
会社を失った彼女たち藤野に、桜宮家は一片の興味すらなくしてしまっただろう。
二人の別れは、もうそこまで迫っているのだ。
(――恋はよく分からない。でも、私は……彼には、幸せになって欲しいと思うわ)
◇◇◇
父は真面目な顔で言った。
「お父さんたちは、幸せな結婚だったのね」
香澄が納得した顔で微笑むと、彼はひどく優しげに笑い返してきた。
「そうだとも。始めの暮らしは貧しいものだったが、お父さんとお母さんは、それでも幸せだったんだよ。ひっそりと挙げた結婚式だって、世界がきらきらと輝いて見えた。世界で一番の幸福者だ。ずうっと一緒にいたかったから、結婚したんだよ」
けれど父は、そこでふっと表情を曇らせた。
「だが、桜宮家は……」
言い掛けて、彼は言葉を濁した。
香澄には、父が言いたいことはよくわかっていた。
会社を失った彼女たち藤野に、桜宮家は一片の興味すらなくしてしまっただろう。
二人の別れは、もうそこまで迫っているのだ。
(――恋はよく分からない。でも、私は……彼には、幸せになって欲しいと思うわ)
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