急激な展開に戸惑ったのは、香澄だけではなく両家の両親もだった。

 香澄は返す言葉に戸惑ってしまっていた。

「だ――大学生なんです」

 ぎこちなく答えた。そんな私がお見合いで、婚約だなんて……そう、小さな声でぽそぽそと伝えた。

 香澄は、これまでずっと父の仕事を見てきた。

 けれど、結婚や恋なんてこれまで考えることがなかった。

 未来のことはわからないが、香澄はいつも不安の中で生きていた。いつも思いつくのは、自分が傷つくばかりの最悪な未来だった。

 彼女は心の病気だと思いこんでいたが、外の人間から言わせると、それは極度の人見知りであり臆病気でもあった。

「すぐに、というわけでなくてもいいんだ」

 晃光は、彼女の否定を恐れるように言葉早く続けた。

「友だちからでも構わない。えっと、そうだな、堅苦しくない席でまずはお喋りをしよう」

 晃光は、高圧的な言葉しか話したことがない人間だった。必死になるほど、言葉柔らかな話し方に苦戦している様子がうかがえた。