◇◇◇
母の葬儀が終わったあと、父は病院で検査を受けた。そこで下った診断は、大腸癌だった。
それからというもの、辛い治療が始まった。
駆け抜けるように日々は過ぎていき、藤野の会社は一年も持たずに閉めることになった。
香澄が父の指示で会社を閉める作業を社員たちと進めると、ここぞとばかりに出てきた桜宮の企業が、とんでもない金額で土地を買収した。
まとまっとお金が入って来たのは、有り難いことだった。
父の治療には、毎月数万円もの費用がかかったが、二年は困らないほどの財産が手元には残った。
晃光は会社の勝手な判断による土地の買収に憤慨したが、香澄はどうにか過ぎ去った日々を懐かしむ気持ちを押し留めて「平気よ」と言った。
香澄にとっては、今がとても大事で、現在流れている時間の方が大切だった。
藤野の会社も、母がいる家も本当に大好きだったけれど、今は、父と帰る家があることの方が重要だった。
「香澄、結婚しよう。君の父の面倒も引き受けるから」
香澄が二十三歳の春、病院に見舞いに来た晃光はそう言った。
母の葬儀が終わったあと、父は病院で検査を受けた。そこで下った診断は、大腸癌だった。
それからというもの、辛い治療が始まった。
駆け抜けるように日々は過ぎていき、藤野の会社は一年も持たずに閉めることになった。
香澄が父の指示で会社を閉める作業を社員たちと進めると、ここぞとばかりに出てきた桜宮の企業が、とんでもない金額で土地を買収した。
まとまっとお金が入って来たのは、有り難いことだった。
父の治療には、毎月数万円もの費用がかかったが、二年は困らないほどの財産が手元には残った。
晃光は会社の勝手な判断による土地の買収に憤慨したが、香澄はどうにか過ぎ去った日々を懐かしむ気持ちを押し留めて「平気よ」と言った。
香澄にとっては、今がとても大事で、現在流れている時間の方が大切だった。
藤野の会社も、母がいる家も本当に大好きだったけれど、今は、父と帰る家があることの方が重要だった。
「香澄、結婚しよう。君の父の面倒も引き受けるから」
香澄が二十三歳の春、病院に見舞いに来た晃光はそう言った。