そのたびに胸がきゅっと痛み、早く彼との別れなければと焦る。

 何よりも、それを他の社員たちが耳にしたときの切なそうな顔が一層香澄の胸を締めつけた。

「香澄、お前は晃光さんのことが好きなのか?」

 食卓で父にそう尋ねたられたとき、香澄は正直に答えた。

「わからないわ……」

 初めは、晃光に対して怖いと思っていた。深く考えてみれば、その感情は、今では少し違ってきている。

 けれど、恋を知らない自分がそう考えるのは、他の女性たちに対してひどく失礼なような気がした。

「でも私たちは、お互い生きる道が違うと思うのよ。お父さんの会社があるから、桜宮家も渋々私を認めただけで……ねぇ、好きと、愛することは違うの?」

 困った顔をした父の隣から、母がすかさず口を挟んだ。

「そうね、違うわ。けれど、根本的には同じような感情があるのよ」

 でもね、と母は注意深く続けた。

「家同士の結婚の場合、優先されるのは条件と欲の深さよ。『好き』は目移りするもので、そこに純粋な愛は求められないわ」