晃光がどうしてもというので、香澄は彼からピンクゴールドの婚約指輪を左薬指にはめさせた。

 それは、高価なものではなかった。

(あっ……私のことを考えて?)

 香澄はその指輪を見て、自分が『高い贈り物なども困ります……』と言っていた、初めてのデートを思い出した。

「この指輪は仮だ。気が早いと思うが、今日、君と僕は婚約者なんだというお揃いの指輪を用意した。両親は僕が会社にどれだけ貢献しているのか知っているから、僕の意思を無視しない――君が了承してくれて、もし結婚が決まったらきちんとした婚約指輪を贈らせて欲しい」

 繊細で壊れやすい生き物に触れるように、晃光の動作はいつも慎重だった。香澄にそっと指輪をはめたあとも、まるで香澄の指が壊れてしまわないようにと見守り、息をつめてそおっと距離を離していった。

 香澄は思わず笑った。

「私は割れ物ではないわよ」

 怪訝そうに見てきた晃光にそう教えてやると、彼が目の下を少し赤くして楽しそうに笑った。