そんな晃光が、素直に従って見合いの席に顔を出したのは二十回目の誘いのことだった。

 また数分も持たずに席を立つと思われていたが、事態は桜宮家の両親が思わぬほ方に転がった。

「藤野香澄さん、どうか僕と婚約して下さいませんか」

 香澄の自己紹介のすぐあとに、晃光が言った言葉は婚約を了承するものだった。

 晃光の顔には、年頃よりも幼く見える微笑が浮かんでいた。彼の真っ直ぐな視線を受ける香澄の方は、自己紹介もしどろもどろで始終俯いていた。

 なかなか終わらない自己紹介だったのもかかわらず――晃光は、はっきり『婚約』と言ったのだ。

 香澄はぽかんとした顔をした。彼女がつたない自己紹介をしている間、桜宮家の当主とその妻は、晃光がいつものように席を立ってしまうのではないかとひやひやしていたが、不意を突かれたような顔をしていた。

「これからお互いのことを、ゆっくりと知っていきましょう」

 そう追って告げた晃光の、いつもは自信溢れる表情にも、少しの恥ずかしみと謙虚すら滲み出ていた。