『息子が気に入ってしまったのは仕方がない。家も、まあまあ申し分ないし』

 向こうからは桜宮家の本音がひしひしと伝わってくるようだった。

「まあ、これでこの子が女性に興味が向くようになれば、もっといいお嬢さんを探すこともあるでしょうけれど」

 桜宮家の母親は、冷たい瞳をしてしれっとそんなことを口にしていた。世間話か独り言にしても嫌味っぽくて、香澄は両親が今にも殴りかかるのではないかとはらはら心配した。

 そうして、二人は〝いったんのところ〟婚約することになったのだった。

        ◇◇◇

 晃光は、どこへ行っても目立つ男だった。

 そして、恋人にするには大変難しい男である。

 香澄が彼の〝彼女〟であることを知っていても、香澄以上の美貌と正当な家柄の娘たちは黙っていなかった。

 月に数回ばかりの婚約者同士という名目の食事の際も、晃光が女に声を掛けられている間、香澄は離れた場所から都会化した街を眺めていた。