「はじめまして」

 彼が柔らかな声を出した。

 笑顔もどこか重圧感が溢れていて、瞬時に社交辞令ができるくらい隙がない人なんだと思い、香澄は途端に怖くなってきた。

 始まった見合いは、最悪だった。

 香澄は緊張しすぎて挨拶もろくにスムーズに終えることができなかった。

 それだというのに、自己紹介を聞き届けてすぐ、彼の口から『婚約しよう』と言われたときは、怯えきって声も上げられないほどだった。

(どうして、私なの?)

 ――どうして。

 控室に待っている女性たちは、どれもお金の使い方を充分に知っている美女ばかりだった。気が強いキャリアウーマンのような雰囲気があり、自信溢れる教養が少しの動作にも滲み出る。

 桜宮の両親は「清楚」という言葉をどうにか使い、ぎこちなく香澄を褒めた。しかし、話題は藤野の会社が大半で『まあそれならばよかろう』という目を桜宮の会長がしているのを香澄は見た。

 香澄の父は、悲しそうな顔に無理やり笑みを刻んでいた。